東京地方裁判所 平成10年(ワ)26830号 判決
原告 株式会社整理回収機構
右代表者代表取締役 鬼追明夫
原告 中坊公平
右二名訴訟代理人弁護士 山川洋一郎
同 宮川勝之
同 篠塚力
右訴訟復代理人弁護士 野田友直
原告中坊公平訴訟代理人弁護士 飯田和宏
被告 株式会社小学館
右代表者代表取締役 相賀昌宏
被告 坂本隆
被告 武冨薫
右三名訴訟代理人弁護士 原秀男
同 竹下正己
同 山本博毅
主文
一 被告らは、原告株式会社整理回収機構に対し、連帯して金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告中坊公平に対し、連帯して金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告株式会社小学館は、原告らに対し、別紙一記載の謝罪広告を、別紙二記載の仕様にて、別紙三記載の各雑誌及び新聞にそれぞれ一回掲載せよ。
二 被告らは、原告株式会社整理回収機構に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告中坊公平に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一〇月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告株式会社小学館(以下「被告小学館」という。)の発行する週刊誌「週刊ポスト」(以下「週刊ポスト」という。)に掲載された二つの記事(以下二つの記事のうち、先行記事を「本件第一記事」、後行記事を「本件第二記事」といい、右二つの記事を合せて「本件各記事」という。)の記載等により、原告株式会社整理回収機構(以下「原告整理回収機構」という。)とその代表取締役であった原告中坊公平(以下「原告中坊」という。)の名誉が毀損されたとして、原告らが、本件各記事を作成した被告武冨薫(以下「被告武冨」という。)、週刊ポストの編集人である被告坂本隆(以下「被告坂本」という。)及び右被告らの使用者である被告小学館に対し、本件第一記事に関する不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料各一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為のときから支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、さらに、被告小学館に対し、本件各記事による名誉毀損を回復するための措置として、別紙三記載の各雑誌及び新聞への謝罪広告の掲載を求めているものである。
一 争いのない事実等(証拠を掲げない事実は争いがない。)
1 当事者
(一) 原告整理回収機構
原告整理回収機構は、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法(平成八年法律第九三号、以下「住専法」という。)に基づき、「特定住宅金融専門会社」(同法二条二項、以下「特定住専」という。)からその貸付債権その他の財産を譲り受けるとともに、その譲り受けた貸付債権その他の財産の回収、処分等行うことを目的とする、同法三条に定める「債権処理会社」として、株式会社住宅金融債権管理機構という商号で、平成八年七月二六日、預金保険機構の出資により設立された会社である。
そして、原告整理回収機構は、平成一一年四月一日、株式会社整理回収銀行との間において、原告整理回収機構を存続会社とする合併をし、商号を株式会社整理回収機構に変更した。
(甲一一、一七、乙一から三まで(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。))
(二) 原告中坊
原告中坊は、原告整理回収機構の設立時から、原告整理回収機構の代表取締役であったが、平成一一年八月二日、原告整理回収機構の代表取締役を辞任した(弁論の全趣旨)。
(三) 被告ら
被告小学館は、雑誌・図書出版等を業とする会社であり、週刊ポストを発行している。週刊ポストの発行部数は九八万部と推計されている。
被告坂本は、週刊ポストの編集人として同誌の編集を行う者であり、被告武冨は、同誌の記者である(正確には、被告武冨は、いわゆるフリーランサーの記者であるが、一〇年以上前から週刊ポスト編集部から依頼を受けて、取材や原告執筆をしていたものである(乙二三)。)。
2 本件第一記事
(一) 被告小学館は、平成一〇年一〇月一九日発売の週刊ポスト同月三〇日号(以下「週刊ポスト一〇月三〇日号」という。)において、左記の記載を含む「中坊公平住宅金融債権管理機構社長は血税取り返しの『英雄』ではない!」、「『自己競落』なる手法で見せかけの実績づくりを続けるこの人物に『日本版RTC』の初代社長を任せてよいのか」、「住管機構『不良債権回収』の水増し処理をスッパ抜く」、「摘出スクープ」との大見出し(以下右見出しを合せて「本件第一記事大見出し」という。)が付された本件第一記事を掲載した。
記
(1) 本件第一記事には、リード部分において、「実は中坊氏は、自己競落という粉飾経営の常套手段を使って、住専の債権回収を水増ししていたー。」と記載した部分(以下「本件粉飾経営部分」という。)がある。
(2) 本件第一記事には、冒頭に、「不良債権飛ばしの常套手段」との中見出し(以下「本件第一記事中見出し(一)」という。)が付された本文の第一小節中に、「住管機構の不良債権処理には重大なトリックが隠されていた。自己競落による回収額の水増し疑惑である。自己競落とは、銀行などが不良債権を回収するために、担保の土地や建物をいったん競売にかけ、自社で高値で落札する手口を指す。不動産の価値が下がっていても、融資額に相当する高値で買い取れば、銀行は経理上、融資を回収したことになり、不良債権は消える。しかし、実際には買い取った価格では転売できないため、銀行が含み損を抱えることになる。経理上のトリックであり、銀行の不良債権飛ばしの常套手段として知られている。住管機構がそれと同様の手口で大量の自己競落を行っていたことが発覚した。」と記載した部分(以下本件第一記事中見出し(一)を含めて「本件自己競落部分」という。)がある。
(3) 本件第一記事には、冒頭に、「自己競落も回収額に計上」との中見出し(以下「本件第一記事中見出し(二)」)が付された本文の第二小節の中に、「住管機構の97年度の債権回収額は6405億円と公表されているが、そのうち自己競落・代物弁済による413億円の大部分は“水増し”された数字ではないかという疑惑が濃厚なのである。」と記載した部分(以下「本件水増し疑惑部分」という。)があり、さらに、「そもそも、住管機構は住専の不良債権をすべて売却して資産を回収する最終処理機関として設立された。回収期間は96年の設立から15年間とされている。住専処理にはすでに6850億円の税金が投じられているが、15年後に会社を清算する段階で生じた2次損失は再び国民の税金で穴埋めされることになっている。その住管機構が大量の不動産を保有すること自体、地価が下落する中で逆に不良債権を増やすことになりかねない反国民的行為だろう。」と記載した部分(以下本件第一記事中見出し(二)を含めて「本件反国民的行為部分」という。)がある。
(二) 被告小学館は、同月一九日から同月二一日にかけて、朝日新聞、読売新聞、産経新聞、日本経済新聞、他多数の地方紙において、週刊ポスト一〇月三〇日号の広告(以下「本件各新聞広告」という。)を掲載したが、この広告中には、「住管機構『不良債権回収』の水増し処理をスッパ抜く。」、「摘出スクープ」との見出しが含まれていた。
3 本件第二記事
被告小学館は、平成一〇年一一月三〇日発売の週刊ポスト同年一二月一一日号において、左記記載を含む「本誌を提訴した中坊公平(住宅金融債権管理機構社長)の『大いなる誤り』」との大見出しが付された本件第二記事を掲載した。
記
(一) 本件第二記事には、冒頭に、「透明性を掲げる裏で取材拒否」との中見出し(以下「本件第二記事中見出し(一)」という。)が付された本文の第一小節中に、「しかし、本誌は中坊氏率いる住管機構の債権回収の方法に素朴な疑問を抱いた。同社は設立わずか2年で抜群の回収実績をあげたことになっている。ではどの担保不動産をいくらで買い、あるいは売って回収したのか。個別案件の取材を申し込んだ。『実態をすべて公表していく』と情報公開と透明性の大切さを説いた中坊氏なら答えてくれるに違いない。が、案に相違して同社は『個別案件については答えられない』(秘書室)という。そこで本誌は独自取材を重ね、住管機構が担保物権を高値で競落し、それを回収実績に計上しているという水増し疑惑を報じた(98年10月30日号)。中坊氏が語っていたように、その当否を広く国民に問題提起し、議論を呼びかける記事だった。驚いたことに、中坊氏と住管機構は、本誌の問題提起に情報を開示することもないまま、本誌を名誉毀損で提訴したのである。どうやら、中坊氏は発言と行動に大きな落差のある人物らしい。」と記載した部分(以下本件第二記事中見出し(一)を含めて「本件取材拒否部分」という。)がある。
(二) 本件第二記事には、冒頭に、「独断で機構を不動産会社化」との中見出し(以下「本件第二記事中見出し(二)」という。)が付された本文の第三小節中に、「中坊氏と住管機構の主張には明らかなウソがある。自己競落は不法占拠や競売妨害を阻止するために例外的に行ったという説明だ。そうではないのではないか。本誌は、住管機構が大量の自己競落を行った背景に、中坊氏が推進した同社の不動産会社化への転換方針、いわゆる《中坊ビジョン》があったことを指摘した。」、「中坊氏は住管機構の目的変更について国会審議、法改正を要求してはいないし、ましてや《中坊ビジョン》の当否について国民に広く訴えていたとは寡聞にして知らない。だとすれば、中坊氏の独断によって、同社は自己競落による不動産買収に突き進んだことになる。しかし、不動産会社化への転換計画は、いつの間にか、ひそかに撤回されていた。自民党内からの厳しい批判があったからだ。昨年秋に表面化した金融危機以来、自民党では金融危機対策とりまとめのために財政部会と金融問題調査会の合同部会を頻繁に開き、大蔵省や預金保険機構、住管機構などの担当者へのヒアリングを行った。その席で中坊ビジョンに対する批判があがった。大蔵省高官は、『住管機構は優良な不動産を抱え込んで売ろうとしないという批判が強い。優良な物件も悪い物件も債権回収のために早く売り払うべきだ。不動産を保有して運用するのは住専処理法で定められた目的を逸脱している』と厳しく抗議している。」、「明らかに、中坊氏も住管機構も、自己競落問題の背後に中坊氏の同社運営方針の誤りがあったことを故意に隠蔽しているとしか思えない。まだある。肝心の水増し疑惑である。住管機構が自己競落分を債権回収に計上していること自体の問題点はすでに指摘したが、それとは別に、同社が不動産を取得するにあたって、最初から債権回収額の水増しを意図して相場を大きく上回る価格で引き取り、現在なお転売できずに不良債権となっているケースがあることも本誌は突き止めている。」と記載した部分(以下本件第二記事中見出し(二)を含めて「本件不動産会社部分」という。)がある。
二 争点
1 本件第一記事による名誉毀損の成否
(原告らの主張)
本件第一記事は、次のとおり、原告らの名誉を毀損するものである(以下原告らが名誉を毀損すると主張する本件第一記事の内容を合せて「本件第一記事名誉毀損部分」という。)。
(一) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分
本件第一記事大見出し及び本件粉飾経営部分の記載は、一般読者に対して、本件第一記事が、「原告らが実績をよく見せかけるために、銀行が粉飾経営又は不良債権飛ばしの常套手段として使う自己競落を大量に行い、これを隠蔽していた」との事実を、被告講談社が「摘出」し、「スッパ抜いた」記事であることを強く認識させ、さらに、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分は、右認識をもとに読み進んだ一般読者に対し、<1>原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために、「粉飾経営」、「銀行が不良債権飛ばしの常套手段」として行う類の自己競落を「大量に」行っている、自己競落、代物弁済による回収額の大部分が「水増し」された数字ではないかとの疑惑が濃厚である、<2>右<1>により、数値上、回収債権額が増えるとの「トリック」を行い、回収金額の公表にあたり、これを秘していた、との印象を与えるものである。
しかしながら、原告整理回収機構は、債権回収額を水増しする目的で自己競落を行ったことはなく、不良債権処理にトリックをしたことはないし、自己競落及び代物弁済により回収した金額は、後記のとおり正確に公表していたのであるから、右各部分は事実に反する。
(二) 本件反国民的行為部分
本件反国民的行為部分は、一般読者に対し、原告整理回収機構が水増し回収目的で取得した大量の不動産を保有し、国民に税金による二次負担をあおぐような不良な経営状態であるとの印象を与えるものである。
しかしながら、原告らは、国民に二次負担をかけないということを最大の公約に掲げ、日夜、その目的遂行のために努力しているところであり、原告整理回収機構が不良資産を増やすということはないから、右部分は事実に反し、かつ、その論評が虚偽の事実のうえになされた悪意に満ちたものである。
(三) したがって、本件第一記事の主要部分は虚偽であり、かつ、その論評は虚偽事実の上になされた悪意に満ちたものであるから、本件第一記事及び本件各新聞広告は、原告らの名誉を著しく毀損するものである。
なお、原告整理回収機構は、一定の公的性格を有するとはいえ、株式会社として、定款に定められた業務を行っている会社であり、その設立の沿革から社会の大きな期待を受け、業務の清廉性に対する社会の強い期待の下に業務を遂行し、その結果、高い社会的評価を得るに至ったものであるところ、業務に公的要素があるからといって、虚偽の事実を摘示されて批判されても甘受せよとされ、裁判所に救済を求め得ないなどとされる理由はない。
(被告らの反論)
(一) 原告整理回収機構については、名誉毀損が成立しないか、成立してはならないこと
原告整理回収機構は、住宅金融専門会社(以下「住専」という。)の不良債権回収のために特別法をもって設立された株式会社で、特別な公的権限を付与された預金保険機構の指導を受けてこれと連携して、住専の債権の回収に当たる機関であり、解散後に預金保険機構の住専勘定に残った残余財産は国庫に帰属することになっている。そうだとすれば、原告整理回収機構は、公共性の極めて高い公的な機関というべきであるところ、本件第一記事は、かかる公的機関ともいうべき原告整理回収機構の業務執行について、公表されてはいるが、十分な情報が開示されているとはいえない業務実績と会社の運営方針を批判したものである。そして、かかる公的な機関の活動に対する批判は、民主主義の根幹をなすものであり、言論の自由が最も保護されなければならないところである。国民の税金によって資金が拠出されている組織の活動について、事実であることを証明しない限り、批判ができないというのでは、民主主義の根幹にかかわる自由闊達な言論の応酬ができなくなり、到底許されることではない。
したがって、原告整理回収機構は、そもそも、本件第一記事を名誉毀損であるとして裁判所の保護を求めることはできない。
(二) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分
(1) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分が、一般読者に対し、原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために、「粉飾経営」、「銀行が不良債権飛ばしの常套手段」として行う類の自己競落を行っていたとの印象を与えるとの点は否認し、原告らの名誉毀損の成立は争う。
(2) 本件第一記事を通読した一般読者が受ける印象
ア 本件第一記事を通読した一般読者は、<1>原告整理回収機構は、住専の不良債権の回収に目覚ましい成果を上げているとされ、既に設立後約二年で四分の一である一兆二五〇〇億円もの債権回収実績を公表しているが、実はその中には、「実際には買い取った価格では転売できないため、含み損を抱える」自己競落や代物弁済による不動産による回収が含まれており、実際には債権が回収されていない疑い、すなわち、水増し回収の疑いがある、<2>原告整理回収機構は、自己競落について、不動産のロンダリングであって、高く転売する見込みがあるから競落したと説明しているが、広く公表して売却しないところからも、この説明をそのまま信用することはできない、<3>原告整理回収機構が自己競落した目的は、右のようなものではなく、本当は、原告中坊が原告整理回収機構の永続化を狙って不動産会社化を計画したことによるものであり、そのために相場より高い価格で買い取ったケースもあると原告整理回収機構自身が認めている、<4>しかし、不動産会社化計画は、原告整理回収機構の設立目的に反するものであり、原告中坊もその後その方針を撤回した、<5>不動産価格が低下していることは周知の事実であり、原告整理回収機構が自己競落等で不動産を取得したことにより、含み損が拡大し、二次損失をもたらしかねない、との事実があり、本件第一記事はこのような事態を招いている原告中坊について絶対的な積極的評価をしてはいけないと警告しているものであると理解する。
イ したがって、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分が、一般読者に対し、原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために、「粉飾経営」や「銀行が不良債権飛ばしの常套手段」として行う類の自己競落を行っていたとの印象を与えるということはない。
(三) 本件反国民的行為部分
本件反国民的行為部分が、一般読者に対し、原告ら主張の印象を与えることは否認する。
本件第一記事を通読した一般読者が原告整理回収機構が水増し回収目的で大量の不動産を取得したとの印象を受けることがないことは、右(二)で主張したとおりであるうえ、本件反国民的行為部分は、原告整理回収機構の含み損が拡大する危険性を指摘しているにとどまり、それ以上に原告整理回収機構の経営状態が不良であるなどという記載はどこにもないから、原告整理回収機構が国民に税金による二次負担をあおぐような不良な経営状態であるとの印象を一般読者に与えることもない。
2 本件第一記事の内容は真実か、又は被告らが真実であると信じたことにつき、相当の理由があるといえるか。
(被告らの主張)
(一) 本件第一記事は、公共の利害にかかわる事実を公益を図る目的で報道したものである。
(二) 原告整理回収機構の不動産による回収とその公表
(1) 原告整理回収機構の不動産による債権回収
原告整理回収機構は、自己競落や代物弁済による回収を行うことを認められていたが、これら不動産による回収を行った場合は、地価の推移に伴って、損失又は利益が発生する可能性があり、取得した不動産を転売して初めて、実質的な回収額が確定するものであった。
原告整理回収機構は、地価低落傾向が続く中で、設立当初、不動産賃貸会社として永続化することを目的として、相場より高いことを承知して、平成九年九月まで、簿価、すなわち、平成七年度の路線価により担保不動産を評価して算定された住専からの債権の取得価額により自己競落及び代物弁済を行っていた。
(2) 原告整理回収機構の債権回収額の公表と国民の理解
原告整理回収機構は、不動産による回収も含めて、債権回収額を公表し、いずれも計画を達成した、あるいは上回ったと公表していた。原告整理回収機構は、不動産による回収が不確実なことも認識しており、そのため定例記者懇話会の配付資料には、不動産による回収の額を別記したが、右配付資料中には、不動産による回収は不確実であるとの記載はなかった。原告整理回収機構は、その公表の際に、不動産による回収が不確実なことを説明したと主張しているが、少なくとも、原告整理回収機構の債権回収成績を報道した新聞記事の大半には、不動産による回収の別記はないうえ、これが不確実であるとする報道はなされず、いずれも原告整理回収機構の回収成績を賞賛する論調のものであった。そして、原告整理回収機構は、平成九年九月まで簿価により自己競落及び代物弁済を行っていたとか、簿価割れ回避目的のために自己競落を行っていたなどということを明確に公表していたということもなかった。
ところが、目標達成として原告整理回収機構が公表した回収実績は、平成一〇年四月までは、不確実であるはずの不動産による回収がなくては目標を達成しなかったものであったにもかかわらず、原告整理回収機構は、各報道機関に対して、債権回収成績の報道に当たって正確を期するようにとの指示や依頼をせず、この結果、世間一般の国民は、回収総額の債権回収が確実になされたものと理解していた。
(3) 不動産による回収の実例
ア 本件訴訟で明らかになった原告整理回収機構の自己競落及び代物弁済は、別紙自己競落・代物弁済一覧表(以下「別表」という。)記載のとおりの二一例(以下「本件二一例」という。)であり、そのうち、原告整理回収機構が簿価で不動産による回収をしていた平成九年九月までの間に行われたものは、自己競落八例(別表番号1から8まで)及び代物弁済一例(別表番号21、以下「本件代物弁済」といい、右自己競落八例と合せて「本件簿価九例」という。また、本件代物弁済により、取得した土地を「本件久太郎町物件」という。)であり、そのうち取得した不動産を売却できたのは五例(別表番号1から3まで、7、8)であるが、売却に至るまでの期間は決して短いものではないうえ、売却総額は約五億六四五五万円(消費税を除いた額)であるのに対し、その取得価額の合計は約六億二三二一万円であり、単純に比較しただけでも、五八六六万円の売却損失が現実化している。これにマンションのリフォーム費用、引渡命令等の弁護士費用、公租公課さらに販売手数料等を勘案すれば、少なからぬ損失が発生したことは明らかである。さらに、この間の総取得価額約五一億五五二一万円に対し、売却総額はその一割強に過ぎず、転売できないで抱え込んでいる不動産の時価は路線価で計算すると半分近くに減価してしまっている。
イ 我が国の地価は、平成二年以後低落を続けており、不動産の路線価も平成七年以後大幅に低落していたうえ、本件二一例のうち、本件簿価九例と平成九年九月以後の自己競落の事例(別表番号9から20まで)との間で、<1>入札価額等と簿価の比較、<2>取得価格と最低売却価額の比較、<3>転売実績を対比すると、原告整理回収機構が平成九年九月までにしていた自己競落等の不動産取得価格は、取得不動産の時価と比較して不相当に高額なものであったことが明らかである。
ウ 原告整理回収機構は、別表番号1から20までの自己競落二〇例(以下「本件自己競落二〇例」という。)について、裁判所の最低売却価額を争う手続を一切取っていない。
エ 別表番号4の事例の最低売却価額は、時価と合理的理由のない乖離が認められる金額ではないのに、原告整理回収機構は、平成九年八月、最低売却価額のほぼ二倍の額である八億円で競落し、平成一〇年四月二八日には、債権回収額の中に含めて計画を上回ったと公表した。しかし、右土地は、その後も転売できず、路線価は低落し続けていることから、含み損が拡大している。
オ 本件代物弁済
本件代物弁済については、<1>平成八年度の路線価でも約二〇億円の価格であった土地を約二八億円で代物弁済を受けたが、平成一一年度の路線価では約一三億六〇〇〇万円になっていること、<2>本件代物弁済による回収額は、平成九年三月期の回収実績に含められているが、同月三一日に行われた本件代物弁済がなければ回収目標額を達成しなかったこと、<3>原告整理回収機構の大阪支社の幹部が、被告小学館の取材に対して、「中坊社長は『このままでは目標に足りない』と非常に気にしており、東京の本社から大阪支社に『目標に足りない時のために、代物弁済でとれる大きなタマ(不動産物件)を用意しておくこと』という指示が出た。」が、そのために、本件九太郎町物件が候補としてあがり、その時価が簿価を下回っていたにもかかわらず、簿価により本件代物弁済が行われた旨語っている(以下「本件幹部発言」という。)こと、<4>代物弁済を行った時点では二次損失は発生しないのであるから、二次損失を回避する目的で代物弁済を行う必要性はないことからすれば、原告らは、平成九年三月期の決算に当たり、回収目標額を達成しないおそれがあったことから、本件九太郎町物件について、その時価が二〇億円であることを知りながら、二八億円で本件代物弁済を受けたのであり、本件代物弁済が債権回収額の水増し目的で行われたものであることは明らかである。
(三) 本件第一記事の作成・掲載に至る経緯
(1) 週刊ポスト編集部の三井直也編集部員(以下三井編集部員)という。)は、平成一〇年八月中旬、経済ジャーナリストから、原告整理回収機構が大量に高額で自己競落している資料として、原告整理回収機構が自己競落を行った事例の最低売却価額や落札価格等が記載された一覧表(乙一三、以下「本件一覧表」という。)を入手したが、これによれば、原告整理回収機構が最低売却価額を大幅に上回る金額で、しかも競争入札者が複数いる事案でも自己競落していることが分かった。裁判所が定めた最低売却価額は、競売市場の目安になる金額であり、これと隔絶した金額による競落は不可解なことであると考えられたし、原告整理回収機構の特質からも、競争者が多数いる物件を競争者を押しのけてまで取得する理由についても疑問があった。また、多額の不動産を買い取ることにより、地価が下落している状況下では含み損が発生しているのではないかとの不安も当然に抱いた。
(2) 三井編集部員は、同年八月二八日、町田きみえ記者(以下「町田記者」という。)に電話で原告整理回収機構を取材させたが、原告整理回収機構秘書室の村田秘書(以下「村田秘書」という。)に個々の自己競落や集約された統計については公表していないと断られた。
(3) 三井編集部員は、不動産登記簿謄本で自己競落の事実を確認するとともに、大半の不動産が転売されていないことを知り、債権回収後に不良資産を抱え込んでいるのではないかという疑問を抱き、記事に取り上げることになった。そこで、三井編集部員は、町田記者に裁判所で調査をさせ、本件一覧表が概ね正確に落札価格や最低売却価額等を表示していることを確認した。
(4) 三井編集部員は、同年一〇月二日、取材を申し込むため、原告整理回収機構を訪問し、自己競落の理由と具体的な内容について、原告中坊にインタビューしたいと申し出たところ、原告整理回収機構秘書室の熊谷富雄秘書役(以下「熊谷秘書役」という。)は、原告中坊は多忙であるから、別の者に説明させると述べ、三井編集部員は、熊谷秘書役の求めに応じ、取材依頼書(以下「本件依頼書」という。)を送付したところ、同月六日、同日午後二時から広報担当の原告整理回収機構秘書室長の内藤幹(以下「内藤秘書室長」という。)が応対するとの連絡があったので、被告武冨に取材を依頼した。
(5) 被告武冨は、フリーのジャーナリストであるが、かねて原告整理回収機構について興味を持ち、取材していた経歴もあったところ、三井編集部員から本件一覧表を示され、原告整理回収機構の役割は素早い債権回収であると認識していたことから、原告整理回収機構が競争相手が多数いるのになぜ自己競落までして不動産を保有しなければならないのか、疑問に思ったうえ、金融機関が不良債権飛ばしをしていることが問題化しており、自己競落がその常套手段になっていたことからも、原告整理回収機構が最低売却価額よりかなり高額な金額で自己競落していることにつき、不審に思った。
(6) ア 被告武冨は、右同日、内藤秘書室長に取材(以下「本件取材」という。)したが、まず、一般的な事項について確認したうえ、自己競落について、最低売却価額の二倍や三倍で落札しているのはおかしいと指摘した。これに対して、内藤秘書室長が不動産のロンダリングが目的で、債務者が落札予定者と結託して安く落とすことがあるという趣旨の説明をしたことから、さらに、被告武冨は、本件一覧表中、競争入札者が一八人や一五人もいた事例では、全員が結託しているとは考えられないので、入札者がたくさんいる事例ではなぜ高く落札する必要があるのか尋ねた。すると、内藤秘書室長は、不動産賃貸会社化構想があったので、「マーケットより高い値段で不動産を買い取った場合もある。」と認めた。
イ 被告武冨は、かねてから原告中坊が従業員のために会社を永続化させようと不動産賃貸会社化を望んでいたことを知っていたが、まさかかかる構想に基づいて現実に相場より高い金額で不動産を購入しているとは思いもよらないことであった。そこで、不動産賃貸会社の構想が正式な機関決定等を経たものか確認したが、内藤秘書室長はこれを否定し、その方針を平成九年秋に変更し、債権回収業務に特化するようになったと説明した。そこで、その方針転換についても機関決定等の有無を確認したが、内藤秘書室長は、そのような決定はなかった旨説明した。
ウ さらに、被告武冨は、本件一覧表を内藤秘書室長に示し、その具体的内容についても聞こうとしたが、個々の不動産については公表していないとのことで相手にされず、せめて競争入札者が多数いた事例として、二例(別表番号1及び9)を示し、物件所在地を話してメモを取ってもらった。内藤秘書室長は調べてみるとのことであった。
エ なお、本件取材の間、内藤秘書室長から、原告整理回収機構が簿価によって自己競落しているとの説明がなされたことはなかった。
オ 被告武冨は、本件一覧表から最低売却価額に比べて高い自己競落をしていたのは、原告整理回収機構が原告中坊の不動産賃貸会社化構想に基づいて、相場より高いことを承知して買っていたためであり、この不動産賃貸会社化構想は、全く正式決定等されないままに実行されていたことを知り、極めて根が深い問題と考え、その旨三井編集部員に報告した。
(7) 同月七日、内藤秘書室長から電話で右二例について説明があり、さらに、被告武冨が具体的な入札価額についてどのように決めているのか尋ねたところ、外部の不動産鑑定を取っているとの話があった。しかし、被告武冨は、内藤秘書室長が相場より高い金額で自己競落していたと語っていたので、本件一覧表に記載されている最低売却価額との乖離ぶりから、原告整理回収機構が独自に入札価額を決めているものと判断した。
(8) 三井編集部員は、入札者が多数いたのにあえて原告整理回収機構が自己競落した三例(別表番号1、9、20)について、町田記者と稲毛記者に取材を指示し、同記者らは、現地に赴いて、管理人や周辺の住民さらには不動産業者等に面談して取材した。さらに、三井編集部員は、原告整理回収機構の自己競落について、監督官庁たる大蔵省の高官から、原告中坊に対し、正面切って反対できないが、不動産の自己競落をすることは原告整理回収機構の本来の役割に反しているとの意見を取材した。
(9) 以上の取材に基づいて、週刊ポスト編集部は、本件一覧表に示された一九例中には、<1>最低売却価額を大幅に上回った金額で自己競落している事例があること、<2>その中には多数の競争入札者がいたのに自己競落した事例もあること、<3>現に転売できずに抱え込んでいる事例もあることを確認し、不動産価格の低落傾向の情勢下で含み損を増やしているものと判断したが、同時に高値の自己競落の背景には、正式な手続きを経ていない、原告整理回収機構の不動産賃貸会社化構想があり、これを実現するためにあえて相場より高い金額で自己競落していたことを知った。そうだとすれば、原告整理回収機構が回収したと発表している債権回収額に含まれている不動産による回収は、自ら認識して、相場より高い金額で自己競落していながら、これを債権回収といっているのであって、正確でないだけでなく、水増しがあるといわざるを得ないと判断した。そこで、週刊ポスト編集部は、取材した事実を全てそのまま本件第一記事に掲載し、原告整理回収機構の債権回収には水増しがあると報じた。
(四)(1) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分の真実性
したがって、原告整理回収機構の不動産による債権回収は、内実より外観を良く見せかけているものというほかなく、「水増し」や「トリック」というべき事実があったことは明らかであるから、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分に記載された事実は真実であるか、又は、少なくとも、被告らが真実であると信じるにつき相当の理由があった。
(2) 本件反国民的行為部分の真実性
また、本件第一記事当時、地価が低落していたことは明らかであるところ、原告整理回収機構は、別表番号4や本件代物弁済の事例のように、不動産による回収を行って取得した高額物件をなお転売することができず、その取得価格で債権を回収したと公表されたにもかかわらず、不動産の価格の低下により、含み損が発生しているのであるから、原告整理回収機構が大量の不動産を保有することが、地価が下落する中で逆に不良資産を増やしかねないことは真実であるか、又は、少なくとも、被告らが真実であると信じるにつき相当の理由があったのであり、その事実を反国民的行為と評価しても何ら不当ではない。
(原告らの反論)
(一) 原告整理回収機構が債権回収額を水増しする目的で自己競落を行ったことがないこと
(1) 原告整理回収機構の二次損失補てんスキーム
後記の改正前の住専法(以下「旧住専法」という。)下では、原告整理回収機構が旧住専七社から譲り受けた債権については、平成七年一月一日の路線価で担保物件が評価され、個々の債権ごとに取得価額(この価額のことを、原告整理回収機構では「簿価」と呼んでいるので、以下「簿価」ということがある。)が設定されたが、原告整理回収機構が取得価額を下回る金額で当該債権の回収を行い、原告整理回収機構において損失が生じた場合においては、国がその損失の二分の一を税金から助成することと定められていた(残り二分の一は住専の母体行等が拠出する金融安定化拠出基金が負担する。旧住専法八条)。この二分の一の損失を国が負担する問題が、いわゆる二次損失負担問題である。
他方、原告整理回収機構が取得価額を上回る回収を行ったことにより利益が生じた場合においては、一個一個の債権回収につき原告整理回収機構は預金保険機構に当該利益分を納付することとされており(旧住専法一二条一〇号、一一号)、旧住専法では、個々の債権回収ごとに損失と利益とを別々に計算し、国からの助成又は預金保険機構への納付をそれぞれ行うものとされていて、回収した債権全体のうちの税金負担に対応する損失と超過回収の利益の通算計算(いわゆるネッティング)はできない定めであったため、原告住管機構は、年度毎、二次損失を出し、国から助成金を受領することとされていたのである。このような定めでは、原告整理回収機構が回収努力を怠ったときにおいでも、国から二次損失補てんを受けることになり、国民の税金が垂れ流し的に使われる危険性があった。
(2) 原告整理回収機構の公約と住専法の改正
原告中坊は、原告整理回収機構の代表取締役に選任されるときに、税金の垂れ流し的使用による二次損失補てんを問題視し、二次損失補てんを税金から受けずに原告整理回収機構を運営することを公約に掲げ、政府その他に公に申し述べ、その承認を得た。
原告中坊は、代表取締役就任後、法制面では、二次負担問題につきネッティング(通算計算)を認めていない旧住専法の改正に努力し、ネッティングができるような法律の改正を大蔵省その他に要望していたが、国は、右要望を容れて住専法の改正作業を行い、ネッティングを含む法改正がなされた。
(3) 原告整理回収機構の不動産による回収が預金保険機構による承認を経た事業計画及び資金計画による不動産による回収であること
住専法一二条三号に基づき、原告整理回収機構は、平成八年一二月一〇日に平成八年度及び平成九年度の事業計画及び資金計画(以下「本件第一事業計画等」という。)、平成九年三月二一日に平成九年度及び平成一〇年度の事業計画及び資金計画(以下「本件第二事業計画等」という。)、平成一〇年三月二五日に平成一〇年度及び平成一一年度の事業計画及び資金計画(以下「本件第三事業計画等」という。)を作成し、いずれも預金保険機構の承認を受けているところ、原告整理回収機構は、右各計画により設定された不動産による回収の枠内で、自己競落及び代物弁済による不動産取得を行ってきたものであるから、適法かつ適式な手続きを経て、不動産による回収を行っているのである。
右各計画における貸付金の回収見込額は、<1>本件第一事業計画等のうち、平成八年度は、二七四三億円、平成九年度は、六三〇九億円(ただし、そのうち、不動産による回収が五七〇億円)、<2>本件第二事業計画等のうち、平成九年度は、右<1>に同じ、平成一〇年度は、六五三四億円(ただし、そのうち、不動産による回収が一七一一億円)、<3>本件第三事業計画等のうち、平成一〇年度は、六〇七二億円(ただし、そのうち、不動産による回収が四八六億円。右<2>を変更したもの。)であった。
(4) 原告整理回収機構の債権回収の方針
原告整理回収機構の債権回収の方針は、<1>まず、任意弁済又は担保物件の任意売却を図る、<2>競売で回収する場合には、第三者競落を原則とする、<3>自己競落及び代物弁済は、極めて限定された条件下で行う、というものであった。
そして、自己競落及び代物弁済を行う際は、<1>隠し資産の代物弁済、<2>将来の現金回収を確実化するための代物弁済、<3>他の債権者からの差押えを避けるための代物弁済、<4>占有者・執行妨害を排除するための自己競落、<5>簿価割れ回避のために事情やむを得ず行う自己競落という場合に限って(ただし、<5>については、後記のとおり、平成九年九月ころまで)行ってきた。
(5) 不動産による回収の際の入札価額等の基準
大蔵省は、旧住専七社に対する一年がかりの検査によって、個別債権ごとにその時価を算定したが、その時価は基本的には平成七年度の路線価を基準として算定した価格であった。原告整理回収機構は、平成八年八月末に右大蔵省検査による金額を見積価格として、旧住専七社との間で、財産譲渡契約を締結したが、基本的に国が作った枠組みの中で財産譲渡を受けざるを得ないことから、同年一〇月に財産譲渡を受け、同年一二月下旬に預金保険機構の指導、承認を受けて、余りに顕著な瑕疵による減額等を行う以外は、本件譲渡契約の見積価格をそのまま譲渡価格として確定させ、財産譲渡を終了させた。
そこで、原告整理回収機構は、同年末以降、簿価は時価として算定したとされていたこと、また、簿価割れ売却は、二次損失の発生を招くことから、簿価を最も権威のある時価の基準として扱わざるを得ず、担保物件を任意売却して回収する場合、簿価以上の価格での売却に努力していたのであり、競売の場合においても、他に回収財産がない債務者については、簿価を確保すべき立場から、簿価を超える額での競売を期待していたところ、自己競落及び代物弁済を行う際も、簿価を基準として回収していた。
しかし、不動産の価格が徐々に低落し始めると、簿価は必ずしも時価と同視しがたくなったうえ、ネッティングが導入されることが確実となったことから、原告整理回収機構は、平成九年一〇月には、多数の売買事例や公的価格調査の動向から見て、物件によっては、簿価が時価と相違している場合があると判断すべきとする方針を出し、その後は、簿価を尊重しながらも、取引事例を基準とすることとし、自己競落についても、必要経費を控除した時価又は最低売却価額での入札を原則とするとともに、簿価割れ回避のために事情やむを得ず行う自己競落は行わないこととした。
(6) 本件二一例について
本件第一記事で指摘された一九例の自己競落(別表番号1から19まで)については、一六例(別表番号1から3まで、5、6、9から19まで)が占有者等の排除、適正価格での競売実施を求めるため、三例(別表番号4、7、8)が簿価割れ回避目的のために自己競落を実施したものである。また、別表番号20の自己競落の事例は、占有者排除、適正価格での競売実施を求めた事例であり、本件代物弁済は、二次損失回避、非協力的債務者への圧力のためになした事例であった。これらは、いずれも、正当な目的の下に行われており、水増し目的のために実施したものではない。
そして、本件自己競落二〇例のうち、転売がなされた事例は一四例(別表番号1から3まで、7から11まで、15から20まで)であるが、その転売額の合計(四五億九八三三万四〇〇〇円)は、最低売却価額の合計(二三億二五六〇万円)を大きく上回り、落札価格の合計(四三億二九七一万五〇〇〇円)をも上回っているから、この面からいっても、原告整理回収機構の実施した自己競落に水増し処理はない。
(7) 以上からすれば、原告整理回収機構が不動産による回収を実施する際には、相当の事由が存するのであり、不動産による回収の目的は正当なものであり、水増し回収目的などではないことは明らかである。
(二) 原告整理回収機構の公表が適切であり、債権回収額を水増ししたことはないこと
(1) 不動産による回収を別記した回収実績の発表
原告らは、原告整理回収機構の設立以降、定期的に行っている記者会見において、回収実績を発表してきたが、その際、不動産による回収も正当な回収ではあるが、不動産は一五年間の業務期間中に換価処分しなければならないので、地価の変動によっては取得価格に比して損失又は利益が発生する可能性があり、最終的な回収額に不確実さがあるため、以下のとおり、自己競落及び代物弁済について、「不動産による回収」として、区分けをして発表してきたものであり、原告中坊もその旨説明してきた(以下、表題の日付は記者発表の日を指す。)。
ア 平成九年四月二五日
平成八年度の実績として、回収実績二七五六億円、うち不動産による回収は約一七〇億円(回収額の六・二パーセント)。
イ 平成九年一〇月三〇日
平成九年度上半期の実績として、回収実績三四三〇億円、うち不動産による回収は約二九〇億円(回収額の八・五パーセント)。
ウ 平成一〇年四月二八日
平成九年度通期の実績として、回収実績六四〇五億円、うち不動産による回収は四一三億円(回収額の六・四パーセント)。
エ 平成一〇年一〇月二九日
平成一〇年度上半期の実績として、回収実績三三七一億円、うち不動産による回収は約九六億円(回収額の二・八パーセント)。
(2) 原告中坊による公表
原告中坊は、不動産による回収の必要性、回収金額、回収状況等を定期的、不定期的にマスコミに公表しており、特に平成九年九月までは、原告整理回収機構の不動産による回収は簿価で行っていた旨を説明していた(その結果、当時の各新聞は、原告整理回収機構が簿価で自己競落、代物弁済を行っている事実を報道している。)のであるから、原告整理回収機構の公表は極めて適切である。取得した不動産の転売実績については、回収面に反映されるものではなく、損益計算書において評価されるものであるところ、原告整理回収機構は、損益収支についても適宜発表を行っていた。
(3) 以上からすれば、原告整理回収機構の公表は適切であり、債権回収額を水増しするようなことをしていないことは明らかである。
(三) 原告整理回収機構が不良資産を増やしているということがないこと
原告住管機構は、住専から譲り受けた不動産に加えて、代物弁済を受けた物件、自己競落した物件を所有しているが、所有している不動産は適宜処分してきており、旧住専七社からの財産譲受時よりも不動産をより多量に保有する等の事実はないから、不良資産を増やすということはなく、本件反国民的行為部分の「反国民的行為」などという非難は、全く事実に反している。
(四) 真実と信じたことにつき相当の理由がないこと
本件第一記事は、三井編集部員が本件一覧表を入手したことに起因して、「住管機構が非常に高値で自己競落をしていて、そのために大変多くの含み損をかけているのではないかと、それを追及するというような企画でした。」(証人三井の証言)ということからスタートしているが、その取材結果によれば、原告整理回収機構は自己競落についてはロンダリングを柱とする適正な業務執行を行っており、落札価格も市場価格とほぼ一致していたのであるから、企画方針を当然に変更すべきものであった。
そして、本件取材において、被告武冨が「ロンダリングであれば、裁判所の定める最低落札価格で落とすのではないか。それよりも高い例もあるようだが。」と質問したのに対し、内藤秘書室長は、「記者懇話会でも説明しているとおり、平成九年九月までは簿価で競落したケースはある。」と答え、最低売却価額よりも高い簿価で自己競落している場合のあることも説明していた。
しかし、被告らは、真撃に事実をみつめることを怠り、逆に、当初の企画どおりに、取材結果に反する事実を記載して本件第一記事を作成したものである。
したがって、被告らにおいて、本件第一記事名誉毀損部分を真実と信ずるについて相当の理由は存在しない。
3 本件第二記事による名誉毀損の成否
(原告らの主張)
本件第二記事は、次のとおり、原告らの名誉を毀損するものである。
(一) 本件取材拒否部分
本件取材拒否部分は、常日頃、「情報の公開」と「行政の透明性」を唱えている原告らが、被告小学館の正当な取材を正当な理由もなく断ったとするものであり、虚偽の事実で原告らの名誉を毀損するものである。
(二) 本件不動産会社部分
本件不動産会社部分は、原告中坊が個人的野望に基づき、独断で原告整理回収機構を不動産会社化して将来存続させようとしたこと、しかし、その実現のための法改正等の動きはせず、自民党や大蔵省からの厳しい批判を受けると、密かに不動産会社への転換計画を撤回したこと、さらに自己競落問題の背後に原告中坊の原告整理回収機構運営方針の誤りがあったことを故意に隠蔽していること等との印象を一般読者に与えるものであるが、これらは誤りであり、原告らの名誉を毀損するものである。
(被告らの反論)
(一) 前記第二、二、1、(一)に同じ。
(二) 本件取材拒否部分及び本件不動産会社部分が誤りであるとの点を否認し、原告らの名誉毀損の成立については争い、その余は認める。
4 本件第二記事の内容は真実か、又は被告らが真実であると信じたことにつき、相当の理由があるといえるか
(被告らの主張)
(一) 本件第二記事は、公共の利害にかかわる事実を公益を図る目的で報道したものである。
(二) 本件第二記事の作成・掲載に至る経緯
(1) 本件第一記事掲載以前の経緯は、前記第二、二、3、(三)で主張したとおりである。
(2) 三井編集部員は、本件第一記事作成当時、原告らが意図的に水増しをしているのではないかという疑いを抱いていた。それは、原告整理回収機構が債権回収の目標達成として公表している数字が、たとえば、平成九年三月期など、回収総額二七五六億円に対してわずか一三億円超過したという綱渡りのような数字であり、一般企業の決算対策のように思われたからであった。
(3) 三井編集部員及び被告武冨は、同年一〇月二六日、原告整理回収機構大阪支社の関係者から、本件代物弁済の事実を取材することができた。
(4) 原告らが、同月二八日、被告小学館に対し、五大紙への謝罪広告の掲載を求めてきたので、同月二九日、三井編集部員は、原告ら代理人の弁護士と面談し、問題点の所在を確認したが、右弁護士は、簿価による自己競落をしていたということは全く話さず、簿価は高すぎて参考にしていないと述べるなどした。
(5) 原告らは、同年一一月二〇日に本件訴訟を提起したが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において、本件第一記事中の「『日本一の不動産会社』の野望」との小見出しを掲げた第三小節については、何ら名誉毀損であるとの主張はなかった。
(6) 三井編集部員は、本件代物弁済に関する記事を掲載すべく、調査を進めたうえ、同月二四日、内藤秘書室長に電話をし、「大阪で代物弁済をした事例について」と説明して、取材を求めたが、訴訟中であるとの理由で取材を拒否された。
(7) 被告武冨は、大蔵省高官から、自民党の財政部会と金融問題調査会との合同部会で原告整理回収機構に対する批判がなされた事実を取材した。
(8) 週刊ポスト編集部は、原告整理回収機構がその公的機関としての性格にもかかわらず、本件第一記事で指摘した問題点を解明しようとせず、右のとおり、取材にも応じないまま本件訴訟を提起したことを批判し、さらに、本件第一記事で、「根が深い問題である」との認識の下に指摘した「正式な手続きを経ることなく、不動産会社化構想に基づいて、相場より高い金額で自己競落し、さらにその方針を撤回したこと」について、何ら本件訴状で言及、反論しておらず、争点としていないことを報道するため、本件第二記事を作成し、掲載した。
(三) 本件取材拒否部分の真実性
取材拒否という表現は、本件第二記事中見出し(一)にあるだけであるが、それを受けた本件取材拒否部分の本文の部分には、<1>原告整理回収機構の秘書室が「個別の案件については答えられない」との対応をしたこと、<2>原告らが本件第一記事による問題提起に対して情報を開示しないで訴訟提起したことが具体的事実として指摘されているところ、<1>村田秘書が個々の自己競落や集約された統計については公表していないと町田記者の取材を断ったこと(前記第二、二、2、(三)、(2) )、<2>内藤秘書室長が個々の自己競落物件について公表していないと述べ、さらに、被告武冨が本件一覧表を示して個々の自己競落について質問したが、個別の案件は分からないとしてこれに取り合わず、特に入札件数の多かった二例についてのみ調べてみようとメモしただけであったこと(前記第二、二、2、(三)、(6) 、ウ)、<3>原告らは、本件第一記事で提起した疑問に答えることなく、本件訴訟を提起したことからすれば、右具体的事実は全て真実である。
さらに、本件訴訟提起後ではあるが、本件第二記事掲載前において、三井編集部員が原告整理回収機構に対し、本件代物弁済について取材を申し入れたが、明瞭に取材を拒否された(前記第二、二、4、(二)、(6) )。なお、原告らは、訴訟の相手方に対して取材に応じる義務はないと主張するが、原告整理回収機構のような公的性格の強い機関が、その活動について批判されたことを理由に訴訟を提起したからといって、取材拒否を正当化することはできない。
したがって、原告整理回収機構の取材拒否は真実であるか、又は被告らが真実であると信じたことにつき、相当の理由がある。
(四) 本件不動産会社部分の真実性
(1) 本件取材の際、内藤秘書室長が原告整理回収機構の永続化のために不動産会社化するという原告中坊の方針に沿って高値で不動産を自己競落していたこと、そのような方針について取締役会の承認等の正規な手続や国会への法改正の働きかけをしていないことを認めており(前記第二、二、2、(三)、(6) 、ア及びイ)、原告中坊も原告整理回収機構の永続化のために不動産賃貸会社になることを夢として語っていたところ、原告整理回収機構が不動産会社化を目的として不動産を取得していたとは国民の知り得るところではなかったものであるし、原告整理回収機構は、正式な手続きを経ることなく、原告中坊の独断で不動産会社化を止め、債権回収業務に特化することになり、この背景に原告整理回収機構の優良不動産抱え込みが民業圧迫であるとの自民党からの批判もあった(前記第二、二、4、(二)、(7) )のであるから、原告中坊が個人的野望に基づき、独断で機構を不動産会社化して将来存続させようとしたが、その実現のための法改正等の動きはせず、自民党や大蔵省からの厳しい批判を受けると、密かに不動産会社への転換計画を撤回したとの事実は、主要な点において、真実である。
(2) 原告らは、本件第一記事について、本件訴状では水増しの点のみを問題にし、原告中坊が独断で不動産会社化方針を現実に実行し、相場より高い価格で自己競落していたとの点には全く触れていなかったものであるから、自己競落問題の背後に原告中坊の原告整理回収機構運営方針の誤りがあったことを故意に隠蔽しているという事実は真実であるか、又は被告らが真実であると信じたことにつき、相当の理由がある。
(原告らの反論)
(一) 本件取材拒否部分について
内藤秘書室長が「個別の債権の回収の内容は原則的には公表できない。」と答えたという事実は否認する。内藤秘書室長は、被告武冨から依頼された個別物件二件について、調査を行い、同被告に結果を知らせており、まさに同被告からの要請に応えている。なお、被告らは、原告整理回収機構秘書室の村田秘書にも電話で質問しているが、同秘書は、個別の事案について集計した資料がない旨回答したのであり、回答を拒否した事実は存在しない。
また、本件第一記事掲載後の被告らの取材申込みが拒否されたという事実は、真実性の立証の対象となり得るものではないうえ、仮になり得るとしても、本件第一記事掲載後の被告らの取材依頼について原告らがとった対応は、「すでに訴訟を提起した事案に関連する事項については、すでに問題が法廷に移行しているのであるから、取材には応じない。」、「右と別個の事項であれば、取材に応じるに吝かでなく、関連するか否かについては、山川代理人を窓口とし、取材希望の事項を聞いたうえ判断する。」というものであり、同代理人が三井編集部員に会ってもよい旨を知らせていたものであるのに、同部員がこれを断ったものであるから、取材拒否には当たらない。
(二) 本件不動産会社部分について
原告中坊は、原告整理回収機構が一五年という存続期間を設けられているため、回収業務の中心を担う原告整理回収機構の社員が回収業務に専心すればするほど自分の職場を早く失うことになるという不条理な環境に置かれていることを憂い、原告整理回収機構がその目的達成後にも、何らかの形で存続することが社員らの回収意欲を高め、原告整理回収機構の回収業務を促進させることにも資すると考えるようになり、そのことを原告整理回収機構の定例記者懇話会で繰り返し公表した。このような原告中坊の構想の正しさは、政府及び国会を動かすことになり、原告整理回収機構と株式会社整理回収銀行との合併及び債権管理回収業に関する特別措置法として実現された。
そして、原告整理回収機構において、不動産会社化構想に基づいて、優良物件の自己競落を推進するように指示が出されていたなどという事実は存在せず、また、原告整理回収機構が、右構想の故に本来の目的を離れて不動産の取得を図った例も一切ない。不動産による回収は、回収の促進、極大化、担保物件のロンダリング等の観点から、原告整理回収機構の取締役会で決定され、預金保険機構の承認を得た事業計画及び資金計画の枠内で担当役員の関与の下に行われたものであり、原告中坊が自らの構想を推し進めるために不動産の取得を独断で命じたなどという事実は存在しない。また、原告中坊の構想によって、原告整理回収機構の回収業務が歪められた事実はないのであるから、原告整理回収機構において、不動産会社への転換計画が密かに撤回されたという事実もない。
なお、内藤秘書室長の発言をもってしても、本件不動産会社部分に摘示した事実について真実と信じるに足りる相当の理由があるものとはいえないし、また、原告整理回収機構による不動産の取得が不動産会社化に向けてのものであるなら、大型物件を廉価で集めようとするのが当然であるのに、取得物件にはばらつきがあり、価格も被告らの認識では高価なものであったというのであるから、右相当の理由がないことは明らかである。
5 被告らの責任
(原告らの主張)
(一) 本件各記事の掲載にあたり、被告小学館の記者等は、原告中坊に全く取材を行っていない。しかも、内藤秘書室長に取材した被告武冨は、内藤秘書室長から、原告整理回収機構が自己競落をする際の方針等の説明を受け、不当な競落などなく、かつ、自己競落等の不動産取得による回収については公表している旨の説明を受けたにもかかわらず、「そのままうのみにはできない」などとして本件記事を作成したのであり、本件各記事による名誉毀損につき故意又は重大な過失がある。
(二) また、被告坂本は週刊ポストの編集人として、掲載する記事の内容が真実であることを確認し、特に記事の内容が他人の社会的評価を低下させるものである場合は事実確認を徹底すべき義務を負っているにもかかわらず、原告らの社会的評価を著しく毀損する内容であることを知りながら、事実と異なる内容の本件各記事を故意又は重大な過失により同誌に掲載し、また本件各新聞広告を各新聞に掲載させたのであり、その責任はきわめて重大である。
(三) 被告小学館は、その従業員である前記被告らが週刊ポストを編集・発行するについて第三者に与えた損害を賠償する責任を負う。
(被告らの反論)
争う。
6 損害
(原告らの主張)
(一) 被告らは、本件第一記事を九八万部もの発行部数を誇る週刊ポストに掲載したうえ、各日刊紙に本件各新聞広告を掲載し、このため、原告らは著しく名誉を毀損された。
右不法行為により原告らが蒙った精神的損害は、原告らにつき、それぞれ金一〇〇〇万円を下らない。
(二) 原告整理回収機構は、本件各記事掲載当時、原告中坊の指揮の下、一〇八〇名の従業員を擁し、一五万一〇〇〇人の債務者を対象に大量の回収業務を行っていた。そして、原告整理回収機構が平成八年一〇月一日に債権譲渡を受けて以来、平成一〇年九月末までの二年間に一兆二五〇〇億円もの回収成果をあげ、国民の高い評価を得ることができたのは、国民一般及び多数の債務者の、原告らが回収業務を公正かつ清廉に遂行しているとの強い信頼があったからであるところ、本件各記事は、原告らの回収の原点ともいうべき右の信頼を破壊するものであり、到底看過しがたいものである。
原告らの業務遂行における右特質に鑑みれば、本件各記事による名誉毀損に対し、その回復のため、右各記事が虚偽であったことを被告小学館自らが認め、原告らに謝罪する旨を広告させる必要がある。
(被告らの反論)
争う。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件第一記事による名誉毀損の成否)について
1 まず、被告らは、前記第二、二、1、(一)記載のとおり、原告整理回収機構は、本件第一記事を名誉毀損であるとして裁判所の保護を求めることはできない旨主張するので検討するに、確かに原告整理回収機構は、株式会社ではあるが、その目的は、特定住専からその貸付債権その他を譲り受けるとともに、その譲り受けた貸付債権その他の財産の回収、処分等を行うということにあり(住専法三条一号)、公的な性格の極めて強い法人であるということができる。しかし、公的な性格が強いからといって、その社会的評価を低下させるいかなる批判をも甘受すべきであるという理由はなく、原告整理回収機構の業務が国民から信頼されることによってはじめて円滑に遂行できるものであることから考えても、同原告の社会的評価を低下させる毀損行為は、同原告に対する国民の信頼をそこない、円滑な業務の進行を妨げるものであるから、同原告に対する不法行為を構成することは明らかである。したがって、被告らの右主張を採用することはできない。
2 本件第一記事の全体の構成
甲一号証によれば、本件第一記事は、冒頭見開き二頁の下部に、「『自己競落』なる手法で見せかけの実績づくりを続けるこの人物に『日本版RTC』の初代社長を任せてよいのか」との副題(以下「本件第一記事大見出し副題」という。)が付された「中坊公平住宅金融債権管理機構社長は血税取り返しの『英雄』ではない!」との大見出し(以下「本件第一記事大見出し(一)」という。)、その上部に、「住管機構『不良債権回収』の水増し処理をスッパ抜く」との見出し(以下「本件第一記事大見出し(二)」という。)、その左側に、「摘出スクープ」との見出し(以下「本件第一記事大見出し(三)」という。)が付され、冒頭に、本件粉飾経営部分を含むリード部分が記載されたうえで、本文として、本件自己競落部分を含む第一小節、次に、本件水増し疑惑部分及び本件反国民的行為部分を含む第二小節、最後に「『日本一の不動産会社』の野望」との中見出しを付した第三小節があるという構成になっていることが認められる。
右認定した本件第一記事の構成を前提として、以下、本件第一記事名誉毀損部分が原告らの名誉を毀損するか否かについて検討する。
3 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分について
(一) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分は、一般読者に対し、原告整理回収機構が、本件自己競落部分に記載されているような不良債権の回収額を水増しするために行われる「粉飾経営」あるいは「銀行の不良債権飛ばし」の常套手段である自己競落を大量に行っていて、原告整理回収機構が公表している債権回収額も水増しされたもので内実の伴っていないものであり、そのことを原告整理回収機構が隠していたとの印象を与えるものであり、原告整理回収機構の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
また、本件第一記事大見出し(一)、本件第一記事大見出し副題及び本件粉飾経営部分において、原告整理回収機構の社長である原告中坊が指示して右自己競落を行っている旨の記載があるうえ、本件第一記事は、その二頁目の左下部に原告中坊の写真を掲載し、その第三小節において、原告中坊が原告整理回収機構を不動産会社化しようとしていたことを批判していることからすれば、原告整理回収機構と原告中坊はほぼ一体のものであり、原告整理回収機構の行為については原告中坊に責任があるとの印象を与えるものであるから、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分は、一般読者に対し、原告中坊の指示により、原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために自己競落を行い、そのことを隠していたとの印象を与えるものであり、原告中坊の社会的評価を低下させるものであるということができる。
(二) これに対し、被告らは、本件第一記事を通読した一般読者は、前記第二、二、1、(二)、(2) 、アのような印象を受けるものであり、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分が、一般読者に対し、原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために、「粉飾経営」、「銀行が不良債権飛ばしの常套手段」として行う類の自己競落を行っていたとの印象を与えるということはない旨反論している。
しかしながら、本件第一記事の本件第一記事大見出しには、原告中坊の不動産会社化構想を批判するような記載は見当たらないうえ、本件第一記事大見出し副題中の「『自己競落』なる手法で見せかけの実績づくりを続ける」という記載や本件第一記事大見出し(二)中の「住管機構『不良債権回収の水増し処理』」という記載からすれば、一般読者の第一印象は、本件第一記事が不動産会社化構想を批判するものであるということではなく、原告整理回収機構が自己競落という方法で債権回収の実績の水増しを行っていることを批判するものであるということにあり、しかも、本件粉飾経営部分や本件自己競落部分において、自己競落とは、銀行などが債権回収額を水増しするために用いられる手法である旨の定義がなされたうえで、「住管がそれと同様の手口で大量の自己競落を行っていたことが発覚した。」と記載されているのであるから、この時点で、本件第一記事が一般読者に対し、原告整理回収機構が債権回収額を水増しするために、「粉飾経営」、「銀行が不良債権飛ばしの常套手段」として行う類の自己競落を行っていたとの印象を強く与えることは明らかである。そして、本件自己競落部分の後に、甲一号証によれば、本件第一記事の第三小節では、本文冒頭に、「実は、住管機構が自己競落による操作を続けてきた背景には、中坊社長のある野望が秘められていた。住管機構を日本一の不動産会社にしようという構想である。」との記載があるうえ、さらに、同小節中には、「中坊氏は社長就任後から、役員会でも、回収すべき不良債権のうち半分だけ資金回収をはかり、残りの半分は担保不動産を買い取って資産運用にあてるという、いわゆる《中坊ビジョン》を示し、社内に自己競落を推進するように指示を出していた。」との記載があり、この点に関して、原告中坊の不動産会社化の方針にそって、「一部には不動産を相場より高い価格で買い取ったケースもあります。」との内藤秘書室長のコメントが記載されていることが認められるところ、右小節は、一般読者に対し、水増し目的で原告整理回収機構が自己競落を行っていた背景に、さらに、原告中坊の不動産会社化の方針もあったという印象を与えるものであって、自己競落の目的が債権回収額の水増しにあるとの前記印象を強めるもので、決して原告整理回収機構の自己競落の目的が原告中坊の不動産会社の方針のみによるものであるとの印象を与えるものでない。
したがって、被告らの右主張を採用することはできない。
(三) 以上によれば、本件第一記事及び本件第一記事大見出し(二)、(三)が記載された本件各新聞広告も、原告らの名誉を毀損したということができる。
3 本件反国民的行為部分について
甲一号証及び右2で検討したところからすれば、本件反国民的行為部分は、一般読者に対し、地価が下落する中で、原告整理回収機構が自己競落した不動産を抱え込み、「大量の」不動産を保有しており、このことは、含み損を増やし、平成八年の設立から一五年後に原告整理回収機構を清算する段階で国民の税金で穴埋めされる二次損失を増やすことになりかねないとの印象を与え、右事実について、反国民的行為であると批判するものであるから、原告整理回収機構及び本件第一記事において原告整理回収機構と一体とされている原告中坊の社会的評価を低下させるものであるということができる。
原告らは、本件反国民的行為部分が、一般読者に対し、原告整理回収機構が国民に税金による二次負担をあおぐような不良な経営状態であるとの印象を与える旨主張するが、本件反国民的行為部分は、将来、国民の税金で穴埋めされる二次損失を発生させる可能性を指摘するものであって、現在の経営状態について言及するものではないから、原告らの右主張は採用することができない。
二 争点2(本件第一記事の内容は真実か、又は被告らが真実であると信じたことにつき、相当の理由があるといえるか。)について
1 公共の利害に関する事実及び公益目的
本件第一記事は、公的な性格の極めて強い法人である原告整理回収機構とその代表取締役である原告中坊が、債権回収額を水増しするために自己競落を行って、水増しした額を債権回収額として公表していた事実を摘示するものであるから、右は公共の利害に関する事実ということができる。
そして、本件第一記事の内容及び後記認定の本件第一記事の作成・掲載に至る経緯に照らせば、本件第一記事の掲載は専ら公益を図る目的であったと認めることができる。
2 原告整理回収機構の不動産による債権回収とその公表等
前記第二の一の争いのない事実等に加えて、証拠(証拠は各事実冒頭に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば、原告整理回収機構の不動産による債権回収とその公表等について、以下の事実が認められる。
(一) 住専問題の処理
(1) 住専問題(甲一一、乙一から三の二まで)
住専は、昭和四〇年代から昭和五〇年代前半にかけて、金融機関等の共同出資により、個人に対する住宅ローンの提供を主たる業務として設立されたが、昭和五〇年代後半以降、民間金融機関が個人向けの住宅金融の分野へ前向きに取り組むようになる等の動きが見られ、住専は、当初の目的である個人住宅ローンの提供から、次第に住宅開発業者、不動産業者への融資へと傾斜していくこととなった。特に、いわゆるバブル期において、住専は、不動産開発業者、不動産業者に対する融資を急速に拡大し、農林系統金融機関(以下「農林金融」という。)を含め、金融機関の住専に対する融資も拡大することとなった。
その後、バブル経済の崩壊と不動産市況の低迷による不動産業者等の経営悪化に伴い、住専からの貸出しについて元利払いが滞り、担保割れが生じるなど、住専は、巨額の不良債権を抱えることとなった。
住専の経営悪化に対して、再建計画も図られたが、最終的には、「住専問題の具体的な処理方策について(平成七年一二月一九日閣議決定)」、「住専処理方策の具体化について(平成八年一月三〇日閣議了解)」及び住専法に基づいて、住専をめぐる関係者(預金保険機構、原告整理回収機構、住専各社、住専に出資を行っている金融機関(以下「母体行」という。)、住専に貸付を行っている母体行以外の金融機関(以下「一般行」という。)及び農林金融)が合意した基本協定に基礎を置くスキーム(以下「住専処理スキーム」という。)によって、住専問題の処理が図られることになった。
(2) 住専処理スキームの概要(甲一一、三〇、三一、乙一から三の二まで)
大蔵省銀行局の資産評価によれば、住専法施行規則二条により特定住専と定められた住専各社、すなわち、日本住宅金融株式会社、株式会社住宅ローンサービス、株式会社住総、総合住金株式会社、第一住宅金融株式会社、地銀生保住宅ローン株式会社及び日本ハウジングローン株式会社(以下右七社を合せて「旧住専七社」という。)の平成七年六月末時点の総資産のうち、回収不能のために損失が見込まれる不良債権等の不良資産は約六兆四一〇〇億円、正常債権その他の回収可能な資産は約六兆七八〇〇億円であると見積もられていた。
そして、住専処理スキームの概要は次のとおりであった。
ア 旧住専七社から原告整理回収機構に対して旧住専七社の総資産を正味財産相当額で譲渡する(原告整理回収機構が旧住専七社に対して支払う代金の原資は、農林金融、一般行及び母体行が融資する。)。
イ その余の損失見込額について、次のように損失負担することとする。
<1> 母体行は、旧住専七社に対する債権全額について債権放棄する。
<2> 農林金融は、社団法人全国信連協会を通じて原告整理回収機構に五三〇〇億円を贈与する。
<3> 預金保険機構は、住専法一二条各号の規定が充足されていることを条件に、原告整理回収機構に対し、六八〇〇億円(住専法二四条一項により、政府が預金保険機構に交付し、預金保険機構が設置する緊急金融安定化基金に充てられる補助金。住専法六条、二四条一項)を限度として同法七条一項に定める助成金を交付する。
<4> 原告整理回収機構は、旧住専七社からの財産譲渡の代金を旧住専七社に対して支払うとともに、右<2>の農林金融の贈与金及び右<3>の預金保険機構からの助成金を原資とする債務処理のための支援金を旧住専七社に交付する。
<5> 一般行は、旧住専七社に対する債権のうち、右に述べた旧住専七社への交付金等と合せて、旧住専七社の清算に要する諸費用等を含め債務が全て処理され得るように算出された金額について債権放棄する。
ウ 旧住専七社は、農林金融に対してはその債権全額を、一般行に対しては、その債権の額から右イ、<5>により算出された債権放棄額を控除した残額を弁済する。
(3) 旧住専七社から原告整理回収機構への財産の譲渡(甲一一、一三、一九、三〇、三一、証人尾崎)
住専処理スキームに基づき、平成八年八月三一日、原告整理回収機構は、旧住専七社との間で、大蔵省検査を下に算出された金額を見積り譲渡価格として、旧住専七社の貸付債権その他の財産(以下「本件譲受債権等」という。)を譲り受けるとの契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結し、右契約に基づいて、同年一〇月一日、旧住専七社から、本件譲渡債権等の引渡しを受けた。
右契約では、本件譲受債権等の譲渡価格は、契約締結後に右譲渡時点での本件譲受債権等の評価額を協議により確定させるものとされていたところ、原告整理回収機構は、約二か月にわたって、本件譲受債権等の担保物件(特に多額の債務者所有物件と高額物件)の調査をし、土地に物理的な減額要素がある場合や権利関係で減額要素がある場合等の担保物件に「顕著な瑕疵」があることによる一〇〇四億円の減額を求めるなどし、結局、同年一二月二六日、右譲渡価格は、六兆〇九九四億円に確定された。そこで、原告整理回収機構は、旧住専七社から譲り受けた現金と貸付債権の回収金から三〇〇〇億円を充て、不足分の五兆七九四四億円を各種金融機関から借り入れて、本件譲受債権等の代金を旧住専七社に支払った。
本件譲受債権等の中で、貸付債権の譲渡価格の総額は、四兆六三九〇億円であったが、簿価、すなわち、個々の貸付債権の譲渡価格は、概ね、大蔵省が担保物件の価値を平成七年の路線価を基準にして算定し、その他、債務者の収益弁済能力等の信用状態を評価し、その評価分の金額(いわゆる信用部分)を上乗せして算定したものであった。その後、平成八年一〇月一日の時点で債務者に返済能力がなかったことが判明した分(総額五〇〇〇億円)については、別枠で管理することになったので、結局、原告整理回収機構としては、総額四兆一三九〇億円の債権を回収しなければならないこととなった。
(4) 二次損失(甲一一、三〇、三一、乙一から三の二まで、証人尾崎)
旧住専法では、預金保険機構は、二次損失が発生した場合、すなわち、原告整理回収機構(住専法上にいう債権処理会社)が旧住専七社(特定住専)から譲り受けた貸付債権その他の財産につき、取得価額を下回る金額で回収すること等により原告整理回収機構において損失が生じた場合(基本的には、譲受債権の取得価額と当該債権について弁済を受けた額(ただし、債務者からの回収が代物弁済によるものであるときは、当該代物弁済により譲り受けた資産の処分等により得られた金額)との差額が損失額となるが、債務者の財産の状況、支払能力等からみて右弁済以外の弁済を受けることができないことが明らかである場合、又は譲受債権に係る債務の全部が履行されている場合に限られる。住専法施行令三条参照。)においては、政府の補助金の額の範囲内で、原告整理回収機構に対し、助成金を交付することができ(旧住専法八条)、さらに、政府は、右損失に伴って生じる原告整理回収機構又は預金保険機構の資金の不足の一部を補うため、予算で定める金額の範囲内において、預金保険機構に対し、当該損失の二分の一に相当する金額(残りの二分の一に相当する金額は、旧住専七社に出資又は貸し付けていた金融機関等からの拠出金で設けられた預金保険機構の金融安定化拠出基金から、原告整理回収機構に対し、助成金が交付される。同法九条、一〇条。)の補助金を交付することができることとされていた(旧住専法二四条二項)。
また、旧住専法では、原告整理回収機構は、預金保険機構からの助成金の交付を受けた場合(前記第三、二、2、(一)、(2) 、イ、<3>)において、本件譲受債権等のそれぞれにつきその取得価額を上回る金額で回収が行われたこと等により利益が生じた場合(利益額の基準は、基本的に右損失額の基準に同じ。)は、当該利益の金額を、その合計額が当該助成金の合計額に達するまでを限り、預金保険機構に納付して政府からの補助金で設けられた緊急金融安定化基金(前記第三、二、2、(一)、(2) 、イ、<3>)に充て、預金保険機構が右納付金額に相当する金額を国庫に納付することとされていた(旧住専法一二条一〇号、一三条)。
(二) 原告整理回収機構の債権回収
(1) 原告整理回収機構の目標(甲五の五、六、甲一一、一三、二三、二四、三〇、乙五の一、三、八、九、乙八の二、証人尾崎)
原告中坊は、原告整理回収機構社長就任直後から、国民に二次負担をかけないこと、すなわち、二次損失を発生させて政府から補助金の交付を受けるような事態を発生させないことを公約として掲げ、報道機関に対しても公言しており、原告整理回収機構も、平成八年一〇月から、債権回収業務を開始した際、国民に二次負担をかけないこと(以下「本件目標」という。)を最大目標として掲げていた。そして、原告らが本件目標を掲げていることはマスコミにより広く報道されていた。
(2) 処理計画(甲一一、一三、三〇、乙一から二の二まで、証人尾崎)
住専法一二条二号は、「債権処理会社(原告整理回収機構)は、前号の契約(本件契約)締結後速やかに、譲受債権等の回収、処分等を十五年以内を目途として完了する処理計画を作成し、機構(預金保険機構)の承認を受けること」と定めており、原告整理回収機構は、同年一二月ころ、同号に定める処理計画(以下「本件処理計画」という。)を作成し、預金保険機構の承認を得た。右計画の中で、原告整理回収機構は、国民の負担を最小限に止めるよう最大限の努力をすることとしたうえで、債権回収の基本方針として、<1>特に延滞している債権や回収が困難な債権については、財産調査権等を有する預金保険機構の協力を得て、適切な管理に努めるとともに借り手など関係者への責任追及、担保権の実行等、法律上認められるあらゆる回収手段を講じ、可能な限り多額の回収をするように努め、正常に返済されている住宅ローン等の債権については適正な管理を行いつつ、全額回収に努める、<2>既に保有しているか今後代物弁済又は自己競落等によって取得する不動産の管理・処分については、極力、賃貸物件化により収益貢献を図るとともに、地価等不動産価格の動向を見ながら、適切な売却により回収が図られるよう努める、などと定めていた。
(3) 事業計画及び資金計画(甲一一、一三から一五まで、三〇、乙一から二の二まで、証人尾崎)
さらに、住専法一二条三号は、「債権処理会社(原告整理回収機構)は、事業年度毎の開始前に(設立の日の属する事業年度にあっては、当該事業年度開始後速やかに)、当該事業年度以降の二年間について事業計画及び資金計画を作成し、預金保険機構の承認を受けること。」と定めており、同号に基づき、原告整理回収機構は、平成八年から平成一〇年にかけて、本件第一事業計画等から本件第三事業計画等までを作成して、いずれも預金保険機構の承認を受けた。右各事業計画における平成八年度から平成一〇年度までの貸付金の回収見込額は、次のとおりであった。
記
ア 本件第一事業計画等
<1> 平成八年度 二七四三億円
<2> 平成九年度 六三〇九億円(ただし、そのうち、不動産による回収が五七〇億円)
イ 本件第二事業計画等
<1> 平成九年度
右ア、<2>に同じ。
<2> 平成一〇年度
六五三四億円(ただし、そのうち、不動産による回収が一七一一億円)
ウ 本件第三事業計画等
平成一〇年度(本件第二事業計画等を変更。)
六〇七二億円(ただし、そのうち、不動産による回収が四八六億円)
(4) 債権回収の方針(甲一三、一六、三〇、三一、乙一から三の二まで、証人尾崎)
ア 不動産による回収の要件
原告整理回収機構は、原則として、債務者からの任意弁済又は担保物件の任意売却による回収を目指し、担保物件を競売する場合には、第三者競落を原則とし、担保物件からの回収については、できる限り、付加価値を付けて高く売却して回収することを目指してきた。
そして、競売にかけた担保物件に不法占有者がいて競売妨害をし、最低売却価額が下落しているような事例も相当数存在し、そのような場合には、適正価格での回収が図れない可能性もあることや、購入希望者より原告整理回収機構が競落した後に適正価格で原告整理回収機構から購入したい旨の申し入れがある場合などもあることから、原告整理回収機構としては、自己競落及び代物弁済の方法で不動産による回収を行う必要性があった。
ただ、不動産による回収では、原告整理回収機構の一五年の業務期間中(住専法では、原告整理回収機構は、本件譲渡契約締結後、速やかに本件譲渡債権等の回収、処分等を一五年以内を目途として完了する処理計画を作成することとされている。住専法一二条二号。)に取得した不動産を金銭に換価処分しなければならず、地価の推移によっては個別の物件ごとに取得価格に比して、損失又は利益が発生する可能性があり、最終的な金銭による回収額には不確定要素があることから、不動産による回収は原則的には行わず、右(3) 記載のとおり、全体として一定の割合を設定したうえ、例外的に、<1>隠し資産の代物弁済、<2>将来の現金回収を確実化するための代物弁済、<3>他の債権者からの差押えを避けるための代物弁済、<4>占有者・執行妨害を排除するための自己競落、<5>簿価割れ回避のために事情やむを得ず行う自己競落等に限り、社長決裁により行うこととしていた。なお、原告整理回収機構は、取得した不動産を、貸借対照表では、販売用不動産に計上し、不動産を売却した場合は、動産不動産関係収益に計上していた。
イ 簿価の運用
原告整理回収機構は、本件目標を掲げていたうえ、簿価が平成八年一〇月の本件譲受債権等引渡し当時の適正価格として公的に認められたものであったので、債権回収に当たっても、当初、簿価をなるべく下回らないように努力していた。そして、不動産による回収においても、簿価を基準として自己競落及び代物弁済を行っており、最低売却価額が簿価に対比して相当の乖離がある場合で、その乖離について合理的な理由がないときは、回収額が簿価を下回ることを回避するために自己競落(右ア、<5>の簿価割れ回避のために事情やむを得ず行う自己競落)をしていた。
(三) 住専法の改正と債権回収方針の変更
(1) 住専法の改正(甲一一、一八、一九、三〇、乙一から三の二まで)
原告中坊を含む原告整理回収機構は、設立当初から、個別の債権の簿価に拘束されず、かつ、本件目標を達成するために、ネッティング、すなわち、各事業年度の回収益と二次損失の二分の一を相殺したうえで国庫納付又は国庫補助を行うことが可能になるような住専法の改正を求めていた。改正を求める理由は、簿価と現実の担保物件の地価に乖離があることなどから、本件目標を維持するために全ての債権について簿価を超える回収を図ることは困難であるのに対し、本件目標を放棄してしまえば、原告整理回収機構の従業員のモラルが低下してしまうところ、ネッティングが可能になれば、個別の債権の簿価に拘束されずに、簿価を超える回収が不可能な債権については簿価を下回る回収を行うとともに、他の債権(特に、簿価がゼロである債権)において簿価を超える回収を図り、その回収益をもって二次損失の発生を防ぐことにより、従業員のモラルも維持することができるということにあった。
原告整理回収機構の右要望は、平成一〇年法律第三九号による住専法の改正(以下「本件改正」といい、本件改正後の住専法を「新住専法」という。)で実現し、新住専法では、原告整理回収機構は、各事業年度において、本件譲受債権等につき生じた利益の合計額と損失の合計額の二分の一を相殺したうえで、<1>損失の合計額の二分の一が上回った場合は、その差額分を補てんするものとして預金保険機構から政府の補助金の額の範囲内で、原告整理回収機構に対し、助成金を交付することができる(新住専法八条、二四条二項)、<2>利益の合計額が上回った場合は、その差額を預金保険機構からの助成金の合計額に達するまでを限り預金保険機構に納付する(新住専法一二条一〇号)、とされた。
(2) 債権回収方針の変更(甲一六、三〇、三一、証人尾崎)
原告整理回収機構は、簿価相当の価格での不動産による回収を、平成九年九月ころまで続けていたが、このころには、不動産の価格が低落し、簿価が時価と乖離している事例が増えてきたうえ、ネッティングが可能となる法改正が認められることが確実になっていた。そこで、原告整理回収機構では、同年一〇月以降、原則として、代物弁済の場合は時価(地元業者・全国規模の大手業者等複数業者からのヒアリング価格を参考にして、原告整理回収機構のマニュアルによって算定することを原則とし、物件内容、価格によっては適宜不動産鑑定業者等による簡易鑑定等を利用する。)で、自己競落の場合は時価あるいは最低売却価額で行う運用に変更するとともに、簿価割れ回避のために事情やむを得ず行う自己競落は行わないこと(以下「本件回収方針変更」という。)とし、同月二九日には、右方針の変更を記載した「代物弁済・自己競落ガイドラインについて」と題する通達(甲一六)を現場に配布してその徹底を図った。
(四) 本件二一例(甲二〇、二一、三〇から三三まで、乙一二、二七から三二まで、証人尾崎)
本件二一例について、個々の事例の簿価、最低売却価額、落札価格や回収に至った事情等は別紙四の1から21までに記載のとおりである(冒頭の番号が別表番号に対応している。ただし、本件代物弁済については、後記3、(一)、(2) で認定するとおり。)。なお、不動産取得日は、別表「所有権移転日」欄記載のとおりであり、別表番号3、10、11、16の事例については、別表「取得後の状況・その他」欄記載のとおり、不動産の転売が実現した(転売予定のものも含む。)。
(五) 原告整理回収機構のマスコミへの公表
(1) 原告整理回収機構のマスコミへの対応(甲三から七まで、一〇、一一、二三から二七まで、二九、三〇、三一、乙五の一、三、八から一四まで、乙八の二から四まで、乙一〇、証人尾崎、同内藤)
原告整理回収機構は、その設立直後から、月毎、東京と大阪の日銀クラブにおいて、日銀記者クラブ、大蔵省記者クラブ及び司法記者クラブの各構成員である日刊紙及び通信各社に対し、定例記者懇話会を開催し、代表取締役社長であった原告中坊も出席して、原告整理回収機構の回収状況や収支状況を含む原告整理回収機構の現況、法改正を含む課題等を公表あるいは説明し、記者の質問に答えていた。また、原告中坊は、原告整理回収機構の代表取締役への就任以来、全国紙及びテレビ局の記者、論説委員等との懇談会を在任中約三〇回実施して、同様の公表あるいは説明を行い、加えて週刊誌を含む多数のマスコミ、報道機関からの個別の取材にも応じ、同様の公表あるいは説明を行ってきた。
(2) 回収実績の公表(甲三の一から四まで、一三から一五まで、三〇、三一、証人尾崎)
原告整理回収機構は、定例記者懇話会において、各事業年度の回収実績を公表してきたが、その際、全体の回収額を示すとともに、不動産による回収には最終的な金銭による回収額に不確定な要素がある(前記第三、二、2、(二)、(4) 、ア)ため、その回収額を別記していた。
設立当初から、平成一〇年までの原告整理回収機構の回収成績の公表内容は、概ね次のとおりであった。
記
ア 平成九年四月二五日
平成八年度(平成八年七月二六日から平成九年三月三一日まで)の回収実績は二七五六億円で、計画二七四三億円を達成した。右回収のうち、不動産による回収は約一七〇億円であった。
イ 平成九年一〇月三〇日
平成九年度上期(同年四月一日から同年九月三〇日まで)の回収実績は三四三〇億円で、同期計画額三一五五億円(年間計画六三〇九億円の二分の一)を二七五億円上回る実績であった。右回収のうち、不動産による回収は約二九〇億円であった。
ウ 平成一〇年四月二八日
平成九年度通期の回収実績は六四〇五億円で、計画六三〇九億円を九六億円上回った。右回収のうち、不動産による回収は四一三億円であり、回収総額の約六・四パーセントであった。
エ 平成一〇年一〇月二九日
同年度上期(同年四月一日から九月三〇日まで)の回収実績は三三七一億円で、同期計画額三〇三六億円(年間計画六〇七二億円の二分の一)を三三五億円上回る実績であった。右回収のうち、不動産による回収は約九六億円であり、回収総額の二・八パーセントであった。
(3) 原告整理回収機構の回収実績に関する新聞報道(甲四の一、五、七、九、一〇、一二、一三、一五、甲五の一から六まで、甲五の八、甲六の一から五まで、甲六の七、八、甲七の二、四、五)
右(2) 記載の定例記者懇話会の発表を受けて、日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞、産経新聞等の各日刊紙は、原告整理回収機構の回収実績が回収計画を達成した、上回った旨の記事を掲載した。そのうち、平成九年四月二六日付及び平成一〇年四月二九日付日刊工業新聞並びに平成九年一〇月三一日付読売新聞には、不動産による回収額も記載されていた。
(4) 自己競落、本件回収方針変更等に関する新聞報道等(甲一一、二三から二七まで、乙八の二)
右(3) 記載の回収実績に関する報道のほか、原告整理回収機構の自己競落、本件回収方針変更等に関する主な新聞報道等は、次のとおりである。
ア 平成八年一〇月二二日付日本経済新聞
「住宅債権機構 担保不動産を賃貸物件に」、「不良債権、2次損失を抑制」との見出しの下、原告中坊が作成した原告整理回収機構の今後五年間の債権回収目標に関する記事が掲載されているが、その中には、右目標の内容として、<1>原告整理回収機構が旧住専七社から譲り受けた債権のうち、二兆八千億円の不良債権の担保不動産は、地価下落により三千億円ほどの含み損を抱えており、市場で転売すれば損失が出るのは必至であるから、原告整理回収機構は、担保不動産の半分は簿価で自己競落して賃貸物件として運営、長期的な賃貸収入で含み損分を埋める、<2>落札した物件は民間との共同開発などで賃貸収入の拡大を目指し、年間七〇億円の不動産の賃貸収入を五年後には七〇〇億円に増やす旨の記載がある。
イ 同日付東京新聞
「住管機構 “国民負担ゼロ”計画示す」、「強力に債権回収 賃料収入を確保 2次損失を防ぐ」との見出しの下、原告中坊の示した今後五年間で債権回収を強力に進めて二次損失を発生させないことを目指すという債権回収計画に関する記事が掲載されているが、その中には、政府の住専処理策では、二次損失の二分の一は財政資金で負担することになっているが、これを踏まえた右債権回収計画の内容として、<1>回収が必要となる不良債権二兆八〇〇〇億円のうち、半分の一兆四〇〇〇億円を全額回収する一方、残りの一兆四〇〇〇億円については、担保不動産を競売に掛けて自己競落する、<2>自己競落の落札価格は簿価と同一に設定し、二次損失の負担の発生を防ぐ、<3>落札した担保物件は、賃貸物件として自己所有し、三年から五年後には年間七〇〇億円の賃料収入を確保する旨の記載がある。
ウ 平成九年一月八日付日経金融新聞
「担保売却に頼らず 自社保有し賃貸も視野」との見出しが付された「債権回収の行方を聞く」と題する原告中坊のインタビュー記事が掲載されているが、その中には、原告中坊が、「旧住専から譲り受けた債権は担保不動産の価値が簿価より下がってしまった物件が多い。この含み損をどう補うかが最大の課題だ。担保不動産の投げ売りはせずに我が社が保有して賃貸収入を得るなどの工夫が欠かせない」、「正常債権の減少に伴う利息収入の落ち込みは避けられないが、自社所有の不動産を増やすことで現在七十億円の不動産の賃貸収入を五年後に十倍の七百億円にする。担保不動産を収入を生む物件として所有することが重要だ。最終的には十五年の回収期間が終わった後も住管機構を不動産会社として存続させたい」と発言したとの記載があり、また、これらの原告中坊の発言に対する解説部分に、<1>地価下落で担保物件の価値が目減りしている現状で本件目標を達成することは困難であるのに、原告中坊が本件目標を掲げているのは、原告整理回収機構の従業員の士気を鼓舞する意図の他に、担保不動産の売却だけでなく、借主の隠し資産の差押えや不動産の運営事業など多様な回収手段を視野に入れているからである、<2>もともとバブル期の採算を度外視した不動産投資に対する債権が多く、並みの賃貸収入では回収が困難であることから、担保不動産を自社で運営して賃貸収入で回収することはリスクも伴う、<3>不動産事業が成功すれば原告整理回収機構が不動産会社として再出発する道も開ける一方、地価低迷が長期化すれば運営費用がかさみ、かえって損失が拡大する恐れもあるとの記載がある。
エ 平成九年七月一日付朝日新聞
「回収債権の1割不動産」との見出しの下、原告中坊が、<1>平成九年四月から六月までの間に回収した債権のうち一割が不動産による回収である、<2>含み損がある可能性もあるが、ネッティングができない現行法を変えることを求めており、それまでのやむを得ない措置であるとの説明をした旨の記事が掲載されている。
オ 金融法務事情同年一〇月五日号
原告中坊が執筆した「住宅金融債権管理機構における債権回収の実績・動向と今後の展望」と題する記事が掲載されているが、その中には、<1>平成八年度の回収実績の中で一七〇億円ほどが代物弁済で、いまのところは採算が十分なものがほとんどであるが、今後は地価の下落傾向の中でやむを得ず含み損を抱える形での不動産取得のケースが出てくることが想定できる、<2>この含み損については、一次損失として処理された債権の中から一割程度回収して賄うと公表している、<3>しかし、現行の住専法(旧住専法)では、ネッティングが認められていないので、ネッティングが可能となるような法改正を大蔵省に要請しているとの記載がある。
また、「住宅金融債権管理機構における債権回収の実績・動向と今後の展望」と題する座談会の記事も掲載されているが、その中には、原告中坊が、<1>原告整理回収機構は、本件目標のために、簿価以上での債権回収を原則として行ってきており、簿価以下で回収して二次損失を出すことはしていない、<2>しかし、地価が下がってきているなかでその原則を維持することには大変な無理がある、<3>そこで、ネッティングを認めていない旧住専法を改正するよう求めている、<4>競売手続の中では、簿価以上での債権回収という原則が崩れる可能性があるので、現在は含み損も生じ得るという想定の下、簿価で自己競落している物件も多い、<4>社長に就任した当時は従業員のために原告整理回収機構を永続した会社にしないといけないと考え、原告整理回収機構を、不動産を取得して管理する不動産管理会社にすることを想定していたが、大蔵省からサービサーの存在を教えてもらった結果、その方がいいと考えるようになった旨の発言をしているとの記載がある。
カ 同年九月三〇日付東京新聞
「譲渡価格以下でも回収」、「損失穴埋めで法改正に合意 住管機構と大蔵省」との見出しの下、原告中坊が、<1>平成九年度上半期の債権回収は、目標若干上回る見込みだが、現在は損失をこれ以上出さないため、譲渡価格を上回る場合だけ回収しており、限界がある、<2>年六〇〇〇億円の回収ペースを維持するため、今後は譲渡価格を下回る場合でも回収を進める必要がある、<3>ただ、国民に二次負担をかけるような事態を避けるため、その際に発生する二次損失について、譲渡価格以上で回収できた別の債権の回収益で穴埋めできるよう法改正することで大蔵省と合意したと説明した旨の記事が掲載されている。
キ 同日付産経新聞
「住専債権 譲渡価格以下も回収」、「住管機構社長 法改正し損失穴埋め」との見出しの下、右カと同一内容の記事が掲載されている。
3 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分の真実性
(一) 原告整理回収機構の自己競落の目的について
(1) 右2で認定した事実によれば、原告整理回収機構は、事業年度ごとに作成する事業計画において、不動産による回収の総額について、預金保険機構から承認を受け、その範囲内において、不動産による回収を行ってきたもので、その総額は、回収総額に比して、平成八年度で約六・二パーセント、平成九年度で約六・四パーセント、平成一〇年度上期で約二・八パーセントと低い割合である(前記第三、二、2、(五)、(2) )うえ、個別の自己競落及び代物弁済を行う際にも、合理的な理由に基づいてこれを行っていた(本件代物弁済については次項で検討する。)ものであるということができるから、債権回収額の水増し、すなわち、実際の回収内容より外観をよく見せかけるために自己競落を行っていたものとは認められない。
また、住専法上、原告整理回収機構は、旧住専七社から譲り受けた債権の回収を図るに当たって、預金保険機構から承認を得た事業計画に基づいてなされることが求められているが、回収の方法について制限があったわけではなく、預金保険機構から承認を得た範囲内であれば、どの不動産をどのような値段で自己競落するかは、原告整理回収機構の合目的的な裁量に委ねられていたものと解されるが、右2で認定した事実によれば、原告整理回収機構の自己競落が右裁量を逸脱したものであったとは到底認められない。
(2) 本件代物弁済
被告らは、本件代物弁済について、水増し目的により行われたものであると主張する。
確かに、甲三号証の一、三一号証、乙七号証の一から四までによれば、<1>本件久太郎町物件については、平成七年度の路線価(一平方メートル当たり四四三万円)によって簿価を約二八億円と算定されていたのであるが、本件代物弁済時点で出されていた平成八年度の路線価(一平方メートル当たり三二四万円)では、約二〇億円、平成九年度の路線価(一平方メートル当たり二七五万円)では、約一七億円の価値しかなかったこと、及び、<2>本件代物弁済は、平成九年三月三一日という平成八年度の期末末日に行われているところ、本件代物弁済(約二七億円の回収となった。)がなければ、平成八年度の回収実績は同年度の回収計画を上回ることができなかったことが認められるうえ、証人三井は、原告整理回収機構の大阪支社の幹部から本件幹部発言を取材したと証言していることからすれば、回収実績を水増しして回収計画を上回ったとする目的で本件代物弁済を行ったのではないかとの見方もあり得ないわけではない。
しかしながら、証人尾崎は、本件幹部発言の内容を否定しており、証人三井の証言から直ちに本件幹部発言があったと認めることはできないうえ、甲三一号証及び証人尾崎の証言によれば、本件代物弁済の経緯として、<1>本件久太郎町物件については、平成九年初めころ、約二〇億円前後で買い受けるとの話があったが、一七二億円で購入した債務者が任意売却に応じなかった、<2>そこで、本件久太郎町物件については、五〇億円と一二二億円の二つの債権があったところ、原告整理回収機構と債務者との間で、同年三月初めころ、五〇億円の債権について、簿価である約二八億円(原告整理回収機構としては、右物件にビルを建てるのであれば、この価格でも妥当であると判断していた。)で右物件の代物弁済を受け、残りの約二二億円については、平成一一年三月末に現金で支払うとの合意をして公正証書を作成し、一二二億円の債権についても、他の物件を任意売却して返済していくことで合意した、<3>原告整理回収機構としては、債務者の社長が刑事捜査を受けていて逮捕される可能性があったことから、右合意を平成九年三月中に処理することによって、他の債務者に対する影響を波及させていこうという思惑から同月三一日に本件代物弁済を行った、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、原告整理回収機構としても、本件代物弁済当時、本件久太郎町物件の実価が簿価相当の価値には満たないことを認識していたことはうかがえるが、当時の時価を相当上回る簿価で代物弁済を受けたからこそ、債権回収のために他の物件について任意売却に応じるなど、債務者から任意の協力も得られたものと解され、当該債務者に対する債権回収全体を円滑に進めるという総合的な判断に基づいて不動産による回収を行うことも、前記第三、二、2、(二)、(4) 、アに掲げられた要件に準じるものとして、原告整理回収機構の合目的的な裁量の範囲内のものというべきであり、本件代物弁済については原告整理回収機構の判断の当不当の問題はあるとしても、本件代物弁済が水増し目的で行われたものと認めることはできない。したがって、本件代物弁済の例をもって、原告整理回収機構の不動産による回収一般につき、水増し目的を推認させるものとみることはできない。
(三) 原告整理回収機構の回収実績の公表について
右2で認定した事実によれば、原告整理回収機構は、回収実績の公表の際、不動産による回収額の総額を別記して公表し、不動産による回収には最終的な金銭による回収額に不確定な要素があること、当初は住専法上、ネッティングが認められておらず、簿価以下の価格では二次損失が発生してしまうため、簿価に相当する価格で不動産を取得していたこと、本件回収方針変更があったこと等も適宜公に説明していたのであるから、原告整理回収機構が回収実績を水増しして公表していたという事実はなかったことが明らかである。
確かに、不動産による回収では、取得した不動産を転売することによって金銭に換価することになるので、地価の推移によっては個別の物件ごとに取得価格に比して損失又は利益が発生する可能性があり、最終的な金銭による回収額は不確定であるうえ、乙六号証及び弁論の全趣旨によれば、平成七年以降、地価が下落していることが認められるから、原告整理回収機構が平成七年度の路線価を基準に算定された簿価を基準として行っていた平成九年九月ころまでの自己競落及び代物弁済の事例については、取得価額と当時の現実の当該不動産の時価との間に相当程度の乖離があったことは明らかであり、不動産による回収額を回収実績に含めて公表するだけでは、不動産による回収部分については実質的な債権回収額という観点からみた場合には、内実を伴っていないものであり、回収実績の公表としては正確性を欠くことになるのは否定できない。
しかしながら、原告整理回収機構は、前記認定のとおり、右の内容についても説明しているのであるから、その回収実績を水増しして公表していたということはできない。
(四) 以上によれば、原告整理回収機構の自己競落の目的が債権回収額の水増しにあったという事実は認められないうえ、原告整理回収機構の回収実績の公表においても、不動産による回収が最終的な金銭による回収額に不確定な要素があること、すなわち、地価の推移によっては損失が生じる可能性があることを隠していたわけではないから、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分の内容は真実でないと認められる。
4 本件反国民的行為部分の真実性
前記第三、二、2、(四)及び前記第三、二、3、(一)、(2) で認定した事実並びに乙七号証によれば、被告らが前記第二、二、2、(二)、(3) 、ア、エ及びオの<1>で主張するとおりの事実が概ね認められる。
右認定事実からすれば、地価が低落していることにより、原告整理回収機構が現在の時価と取得価格との間に相当の乖離がある不動産を保有していることは明らかであり、その中には、当面、転売の見込みも無い事例(別表4、21)もある(証人尾崎)のであるから、そのような事実自体を批判する意見を述べることが許されることは当然であり、何ら非難されるべきものではない。
しかし、前記第三、二、2、(四)で認定した事実及び証人尾崎の証言によれば、本件簿価九例のうち、五例はすでに転売され、その損失額の合計は五五四七万四〇〇〇円で、転売額の合計五億六七七四万一〇〇〇円からすれば、それほど大きなものともいえず、本件二一例のうち一四例(別表番号1から3まで、7から11まで、15から20まで)の取得不動産については転売済みであるか転売する予定が立っており、その転売額の合計は四五億六三七二万九〇〇〇円で、落札価格の合計四三億二九七一万五〇〇〇円を上回って利益を出しており、残りの取得不動産についても適宜売却していく予定であることが認められ、原告整理回収機構が自己競落した不動産を抱え込み、「大量の」不動産を保有していると認めるに足りる証拠はなく、これを前提とした「不良債権を増やすことになりかねない」との意見も不正確なものといわざるを得ない。
したがって、本件反国民的行為部分はその主要な部分において真実であると認めることはできず、反国民的行為という評価も正当なものということはできない。
5 相当の理由の有無について
(一) 次に、被告らに本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分の内容が真実であると信じたことにつき、相当の理由があるかが問題となるところ、まず、甲八号証、乙一五号証から一九号証まで、乙二一号証から二三号証まで、証人三井の証言、被告武冨本人尋問の結果によれば、本件取材の内容を除く本件第一記事の作成・掲載の経緯は、概ね被告らが前記第二、二、2、(三)(ただし、そのうち、(2) 、(6) を除く。その部分については次に認定するとおり。)で主張するとおりであることが認められる。
(二) 町田記者の村田秘書に対する取材(前記第二、二、2、(三)、(2) )
乙一五、二一号証によれば、町田記者が村田秘書に対し、回収方法ごとの回収額の総額について取材したところ、村田秘書は、そのような集計はしておらず、仮にしていたとしても、外部に公表することはない旨回答したことが認められる。
(三) 本件取材の内容(前記第二、二、2、(三)、(6) )
甲八、二九号証、乙一三、一九、二二、二三号証、証人内藤及び同三井の各証言、被告武冨本人尋問の結果によれば、本件取材の内容について、次のとおり認められる。
(1) 本件依頼書には、企画1(本件取材)と企画2が記載されており、企画1については、テーマとして、「住宅金融債権機構の債権回収の現状」、取材ポイントとして、「債権回収の推移(金額、件数など)」、「自己競落物件の件数と競落金額、転売状況(上記に関連し、今後、転売できずに損失が出る危険はないか)」、「機構の経営について(収支、社長・役員の待遇など)」と記載されており、また、企画2については、テーマとして、「中坊公平・社長インタビュー」、ポイントとして、「住管機構のこれまでの実績」、「債権回収の難しさと現在のシステムの問題点」、「新設させる整理回収機構への期待と課題」、日時として、「10月中をメドにご検討いただきたく存じます」と記載されていた。
右依頼書を受けた熊谷秘書役から報告を受けた内藤秘書室長は、原告中坊と相談し、企画1については、これまで記者会見等で公表しているデータの確認、問い合わせといった取材内容であり、希望日時が近かったこともあるうえ、原告中坊のインタビューは別途企画でという申し出であったことから、内藤秘書室長が応対することとした。
(2) 本件取材の際、まず、被告武冨は、原告整理回収機構の職員数、役員の構成、本件譲渡債権等の内容等の一般的な事項について質問し、内藤秘書室長がこれに答えるとともに、原告中坊が本件目標を掲げているが、回収額が簿価を下回ると二次損失が発生してしまうので、法改正を要望して本件改正が行われたことを説明した。
(3) そして、被告武冨が自己競落も回収額に含まれているのかと質問すると、内藤秘書室長は、不動産による回収として定例記者懇話会でも説明しており、不動産による回収額は括弧付きで公表しているとしつつ、平成九年度の回収額が六四〇五億円であるうち、自己競落や代物弁済による回収額が二二八億円で、全体の六パーセント強であることを説明した。
(4) ここで、被告武冨が、原告整理回収機構が最低売却価額の二倍や三倍で自己競落した事例があるが、それを回収というのはおかしいと指摘したところ、内藤秘書室長は、不法占有者を排除するなど不動産の権利関係をきれいにして不動産の価値を上げるという不動産のロンダリングのために自己競落することや原告整理回収機構から買い取りたいとの購入希望者の依頼を受けて代物弁済を受けたことがある、占有者や債務者が落札予定者と結託して、占有を理由に最低売却価額を下げさせてから安く落札して高く販売することで不当な利益を得る場合もある旨説明した。
これに対し、被告武冨が、自己競落した物件の中には、入札者が一八人もいた事例もあったのに、最低売却価額より高く落札する必要があるのかと尋ねると、内藤秘書室長は、原告中坊が原告整理回収機構設立当初から平成九年秋から年末くらいまでの間は、会社を永続化させるために原告整理回収機構を不動産会社化すべきではないかと考えていた旨説明した。
(5) そこで、被告武冨が、不動産会社化するということは原告整理回収機構内で決定されたことなのかと尋ねると、内藤秘書室長は、<1>原告整理回収機構内で正式に決定したわけではないが、原告中坊は従業員のことを考えると不動産会社になるのがよいと考え、そのように説明していた、<2>原告整理回収機構は、旧住専七社から平成七年一月現在の路線価、すなわち、簿価で債権を譲り受けているが、不動産会社化構想もあったので、時価より高くなっている簿価で不動産を買い取ったケースもある、<3>しかし、平成九年の秋くらいから、不動産会社としてではなく、サービサーとしてやっていこうという方向になって、自己競落や代物弁済は厳しくチェックして減らしているという趣旨の説明をした。
さらに、被告武冨が、不動産会社ではなく、サービサーに徹しようという方針は、原告整理回収機構内で決定したのかと尋ねると、内藤秘書室長は、そういうわけではなく、原告中坊の考えがサービサーとしてやっていこうということに変わった旨説明した。
(6) その後、内藤秘書室長が原告中坊の不動産会社化構想の内容について説明した後、被告武冨が、原告整理回収機構が取得した不動産の内容を全て公表して買い手を探すべきではないのかと指摘したところ、内藤秘書室長は、不動産というのは特殊な商品で、全部公表すると安く買いたたかれてしまうなどと説明した。
(7) さらに、被告武冨が、本件一覧表を示して、最低売却価額より相当高い価格で自己競落している事例や多数の入札者がいた事例等は不自然ではないのかと質問すると、内藤秘書室長は、被告武冨の示した二例(別表番号1、9)の内容について調べてみると答え、物件名等を手元に控えた。
(8) その後、被告武冨がいくつか質問した後、原告中坊への取材を別途申し込んであることを確認して本件取材は終わった。
(四) 右認定に対し、被告武冨は、簿価で自己競落していたとの説明は受けていないと供述し、同人が本件取材を再現して作成したデータ原稿(以下「本件データ原稿」という。乙二二。)にも、明確に内藤秘書室長からその旨の説明を受けたとの記載はない。
しかしながら、証人内藤は、簿価で自己競落していたことを説明した旨証言しているうえ、前記第三、二、2、(五)、(4) で認定したとおり、<1>原告整理回収機構が簿価で自己競落していた、<2>本件回収方針変更がなされたとの報道がなされており、被告武冨も、右報道がなされていたことは知っていた旨供述していることからすれば、被告武冨が、原告整理回収機構が簿価で自己競落していたことを知らなかったとは考えがたい。そして、本件データ原稿は、本件訴訟提起後の平成一〇年一二月一〇日に被告武冨が本件取材時のメモを下に作成した(被告武冨本人)もので、本件取材当時のやりとりを必ずしも正確に再現したものとはみれない。
したがって、被告武冨の右供述部分を採用することはできない。
(五) 本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分についての相当性
右に認定した本件第一記事の作成・掲載の経緯からすると、被告武冨及び三井編集部員は、<1>本件一九例中には、最低売却価額を大幅に上回った金額で自己競落している事例があること、<2>その中には多数の競争入札者がいたのに自己競落した事例もあること、<3>現に転売できずに抱え込んでいる事例もあること、<4>内藤秘書室長が時価より高い金額で原告整理回収機構が自己競落していたと説明したことから、原告整理回収機構の債権回収には水増しがあると判断したということができる。
しかしながら、まず、時価より高い価格で自己競落及び代物弁済をしていた理由として、少なくとも被告武冨は、内藤秘書室長から、不動産のロンダリングの必要がある場合や既に買い手がついているが買い手の希望により、原告整理回収機構が一旦買い受けて買い手に転売する場合等があることについては説明を受け、被告武冨自身も、右の各場合に自己競落すること自体にはそれなりの合理性があるものと納得していたことがうかがわれる(被告武冨本人)。そして、最低売却価額は必ずしも取引の実勢価格を反映した価格ではなく、むしろ通常は、実勢価格から減価して定められるものであるから、実勢価格よりも低い価格であることが多い(乙一一の一から三まで)うえ、通常行われている期間入札の方式であれば、入札書を入れた封筒を執行官に差し出すか書留郵便により送付して入札を行う(民事執行規則四七条、弁論の全趣旨)のであるから、入札時には他に入札者が何人いて、入札価額をいくらに設定しているかは分からず、原告整理回収機構としては、最低売却価額を上回ったとしても、自らが妥当であると判断した価格で入札せざるを得ないこと、三井編集部員が町田記者及び稲毛記者に実際に現地を取材させた三例(別表番号1、9、20)の取材結果は、別表番号1の事例については、不動産の時価は落札価格と同じ、別表番号9の事例については、不動産の時価は落札価格八〇〇〇万円より一〇〇〇万円安い七〇〇〇万円、別表番号20の事例については、不動産の時価は不明というものであったこと(乙一六から一八まで、証人三井)、内藤秘書室長が外部の不動産鑑定をとって入札価額を決めていると被告武冨に説明していること(前記第三、二、5、(一))、原告整理回収機構は、広く報道機関等に対し、債権回収等について公表しており、新聞報道等も多数なされていたこと(前記第三、二、2、(五))からすれば、原告整理回収機構の債権回収には水増しがあるとの前記三井編集部員らの判断は短絡的であり、「債権回収の水増し」というためには、本件一覧表に示された一九例のうち、時価と落札価格が相当乖離していた件数、その場合に時価と落札価格が乖離している程度や、その程度が大きい場合には合理的理由の有無があるか否かなどについて、さらに検証がなされてしかるべきであったといえ、調査不足は否めないというべきである。しかも、被告らは、原告中坊にもインタビューを申し込んでおり、被告武冨は本件取材の最後にその確認までしていた(前記第三、二、5、(三)、(1) 及び(8) )のであるから、原告中坊の行動を批判するのであれば、本件第一記事を掲載する以前に原告中坊に実際に問いただすべきであった(乙五号証の一四によれば、原告中坊も月刊誌「論座」で連載していたエッセイの中で、被告小学館の記者からインタビューの連絡がくるのを待っていた旨述べていることが認められる。)というべきであり、それをしないでいきなり本件第一記事を掲載した被告らの行為はいかにも唐突であるといわざるを得ない。
地価が下落する中で、原告整理回収機構が時価より高い価格で不動産を取得することは損失を発生させる可能性があるのではないかということに三井編集部員らが着目したことには合理性があり、現に原告整理回収機構が時価よりも高い価格で取得したが、転売できずに取得価格と時価との乖離が広がっている物件は存在し(前記第三、二、4)、被告武冨も証言するように、旧住専法下で二次損失を出して国庫からの負担をあおいだとしても、他の債権回収で上げた利益は国庫に納付されるのであり、新住専法下でネッティングをしたうえで国庫に納付される利益と比べても、数字だけみれば変わらないことからすれば、そのような不動産による債権回収の実体を捉えて、本件目標を維持するために、現実の時価よりも高い価格で自己競落等を行っていた原告整理回収機構の回収方針を批判することは言論の自由に照らして正当な批判であるということができる。そして、週刊ポスト以外でも、原告整理回収機構が不動産を取得することの危険性を指摘している新聞記事も存在する(前記第三、二、2、(五)、(4) 、ウ)し、原告中坊自身も含み損が発生することは認めている(前記第三、二、2、(五)、(4) 、オ)。
しかしながら、本件第一記事は、単にそのような正当な批判を行うだけのものではなく、原告整理回収機構が債権回収額の水増し目的のために自己競落を行っていたなどと、殊更に、真実とは異なる批判をするものであるから、その点において不当なものといわざるを得ない。
したがって、被告らに、本件第一記事大見出し、本件粉飾経営部分、本件自己競落部分及び本件水増し疑惑部分の内容が真実であると信じるにつき、相当の理由があったと認めることはできない。
(六) 本件反国民的行為部分についての相当性
右に認定した本件第一記事の作成・掲載の経緯からすれば、被告らに、原告整理回収機構が自己競落した不動産を抱え込み、「大量の」不動産を保有していると信じたことにつき、相当の理由がないことは明らかである。
三 争点3(本件第二記事による名誉毀損の成否)について
1 本件取材拒否部分について
本件取材拒否部分が、一般読者に対し、常日頃、「情報の公開」と「行政の透明性」を唱えている原告らが、被告小学館の正当な取材を正当な理由もなく断ったという印象を与えることは被告らも認めているところ、右部分が原告らの社会的評価を低下させることは明らかである。
2 本件不動産会社部分について
本件不動産会社部分が、一般読者に対し、原告中坊が個人的野望に基づき、独断で原告整理回収機構を不動産会社化して将来存続させようとしたこと、しかし、その実現のための法改正等の動きはせず、自民党や大蔵省からの厳しい批判を受けると、密かに不動産会社への転換計画を撤回したこと、さらに自己競落問題の背後に原告中坊の原告整理回収機構運営方針の誤りがあったことを故意に隠蔽していること等との印象を与えることは被告らも認めているところ、右部分が原告中坊の社会的評価を低下させることは明らかである。そして、これまでに判示したとおり、原告中坊と原告整理回収機構とは、本件各記事において、ほぼ一体のものとして考えられているので、原告中坊が原告整理回収機構に関する事項で社会的評価を低下させられたのであれば、原告整理回収機構の社会的評価も同様に低下させられたものと解される。
四 争点4(本件第二記事の内容は真実か、又は被告らが真実と信じたことにつき、相当の理由があるといえるか。)について
1 公共の利害に関する事実及び公益目的
本件第二記事も、本件第一記事と同様、公的な機関である原告整理回収機構とその代表取締役である原告中坊を批判する事実を摘示するものであるところ、右事実は公共の利害に関する事実ということができ、本件第二記事の内容及び後記認定の本件第二記事の作成・掲載の経緯に照らせば、本件第二記事の掲載は専ら公益を図る目的であったと認めることができる。
2 本件第二記事の作成・掲載の経緯
本件第一記事の作成・経緯の経緯は、前記第三、二、5、(一)から(三)までで認定したとおりであり、乙二〇、二一、二三号証、証人三井の証言、被告武冨本人尋問の結果によれば、本件第二記事の作成・掲載の経緯は、概ね被告らが前記第二、二、4、(二)で主張するとおりであることが認められる。
3 本件取材拒否部分の真実性又は相当性
本件取材拒否部分は、被告小学館が個別案件の取材を申し入れたところ、原告整理回収機構の秘書室が、「個別案件については答えられない」と回答してきたこと、本件第一記事掲載後、原告整理回収機構が右記事の問題提起に情報提供することなく本件訴訟を提起した事実から、原告整理回収機構が取材拒否を行ったとの事実を摘示する。
しかしながら、村田秘書は、原告整理回収機構の債権回収の方法ごとに集計していない旨回答した(前記第三、二、5、(二))のであり、町田記者の取材を拒否した事実は存在せず、内藤秘書室長が「個別案件については答えられない。」と答えたという事実もない(前記第三、二、5、(三))うえ、内藤秘書室長は、被告武冨から依頼された自己競落の二例について調査を行い、同被告に結果を知らせている(前記第三、二、5、(一))。また、本件第一記事掲載後、原告らが本件第一記事に反論することなく、本件訴訟を提起したことは、被告小学館の取材を拒否したということには当たらないことが明らかである。
したがって、本件取材拒否部分は真実ではないし、被告らに、右部分が真実であると信じたことにつき、相当の理由があるとはいえない。
なお、被告らは、本件第二記事掲載前に、三井編集部員が原告整理回収機構に対し、取材を申し入れたが断られたことも取材拒否に当たる旨主張するが、右事実は、本件取材拒否部分において摘示された事実ではないので、被告らの右主張は主張自体失当である。
4 本件不動産会社部分の真実性又は相当性
(一) 真実性
これまで判示したところによれば、原告整理回収機構は、主として占有者・執行妨害を排除する等の目的(なお、平成九年九月までは簿価割れ回避目的での自己競落もあったことは前記認定のとおり。)で自己競落を行ってきたものであり、原告整理回収機構を不動産会社にするために自己競落を行っていたとは認められない。
本件取材時に、内藤秘書室長が不動産会社化構想があるから自己競落を行っていたと受け取られかねない発言をしたことは、前記第三、二、5、(三)、(5) で認定したとおりであるが、同人は、原告整理回収機構の債権回収において、自己競落等を行う必要性はあるが、自己競落等で不動産を取得し、保有することになっても、当初は、原告中坊の不動産会社化構想があり、取得した不動産を賃貸して賃料収入を得ることにより活用していけば、原告整理回収機構の従業員の雇用の確保にも役立つという意味で、右発言をしたという趣旨の証言をしているところ、原告中坊は、原告整理回収機構代表取締役就任当時から、存続期間が一五年と定められていた原告整理回収機構の従業員の士気を考慮して、原告整理回収機構を不動産管理会社として永続化させる構想を抱いており、その旨を公言し(甲一一、三一、乙八の二、証人尾崎)、原告整理回収機構は、設立当初から、不動産を取得してその賃料収入で回収する計画を公表していた(前記第三、二、2、(五)、(4) 、アからウまで)のであるから、内藤秘書室長はその証言どおりの趣旨で不動産会社化構想の発言をしたものと認められ、内藤秘書室長の右発言から、原告整理回収機構が、同社を不動産会社にするために、原告中坊の指示により自己競落を行っていたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠は存しない。
したがって、本件不動産会社部分の内容が真実であると認めることはできない。
(二) 相当性
内藤秘書室長が、原告整理回収機構が同社を不動産会社にするために、原告中坊の指示により自己競落を行っていたと受け取られかねない発言をしていたことは右(一)で述べたとおりであり、内藤秘書室長自身も誤解を与えるような発言であったことを認めている(証人内藤)。
しかしながら、被告武冨の認識では、不動産会社化のために時価より高い価格で自己競落していたと内藤秘書室長が答えた(被告武冨本人)とのことであるが、原告整理回収機構による不動産の取得が不動産会社化に向けてのものであるなら、物件をなるべく廉価で取得しようとするのが自然であるし、マンションの中の一戸(別表番号1、9)という物件を対象にするのではなく、もっと大型の物件を選ぶのが合理的であると考えられることからすれば、被告武冨の前記認識自体合理性を欠き、敢えて時価より高い価格で自己競落する合理的根拠等をさらに内藤秘書室長に問いただせば、右(一)で述べた同人の真意を理解することができたはずであると考えられる。そして、不動産会社化のための自己競落という事実について、三井編集部員及び被告武冨が本件取材の他に取材したのは、大蔵省の幹部だけであるが、乙二〇号証によれば、同幹部も、不動産会社化のために原告整理回収機構が自己競落を行っていたと話したわけではないことが認められるから、原告整理回収機構が原告中坊の指示により、不動産会社となるために自己競落をしていたとの事実を真実であると信じるにつき、被告らに相当の理由があったと認めることはできない。
したがって、被告らに、本件不動産会社部分の内容が真実であると信じるにつき、相当の理由があったと認めることはできない。
五 争点5(被告らの責任)について
以上によれば、本件各記事を作成した被告武冨及び編集人として本件各記事を週刊ポストに掲載することを決定した被告坂本は、本件各記事及び本件各新聞広告による原告らの名誉毀損について、少なくとも過失による共同不法行為責任を負うものというべきであり、右被告らの使用者である被告小学館は、右不法行為について使用者責任を負うものというべきである。
六 争点6(損害)について
1 謝罪広告の必要性
週刊ポストの発行部数は、九八万部と推計され(前記第二、一、1、(三))、本件各新聞広告も、各日刊紙に掲載されていたことからすれば、本件各記事が与える影響力は相当に強いものであることがうかがわれるが、原告整理回収機構に関する報道は、正確で、かつ、その行為を評価しているものが多く(前記第三、二、2、(五))、本件各記事により、実際に原告整理回収機構の債権回収に支障が出るなどという状況が発生したことをうかがわせるような証拠は存在しないこと、原告中坊は、月刊誌「論座」に連載していたエッセイの中で、本件第一記事を悪意に満ち、事実に反する記事であるとしたうえで、右記事に対し、<1>原告整理回収機構が担保物件を最低売却価額よりも高値で自己競落しているのは、例えば暴力団関係者が物件を占有しているような場合、最低売却価額が低くなってしまうので、多少高めでも担保物件を自己競落して暴力団を排除し、物件の資産価値を競落額より高めてから転売する方法が効率的な回収策となるからである、<2>自己競落の方法と金額について毎月の定例記者懇話会で公表してきたのに、それがなぜ、「粉飾経営」になり、しかも、「スクープ」と銘打つ記事に化けるのか、<3>原告整理回収機構の従業員のために原告整理回収機構をいずれは不動産会社にしたいという構想も、サービサーとしての道が開かれるまで何度も公表し、新聞でも報道されていた等と反論している(乙五の一四)こと、前記第三、二、4で検討したように、本件第一記事は、地価が下落する中で、原告整理回収機構が時価より高い価格で不動産を取得することは損失を発生させる可能性があるのではないかということに三井編集部員が着目したことからその取材が始まったものであり、右着眼点自体には合理性があり、本件第一記事の中で、その観点から原告整理回収機構の不動産の取得について批判した部分は、正当な批判として当然許されるべきものであること、被告武冨による内藤秘書室長の説明には誤解されかねない部分もあったこと、などを考慮すれば、本件第一記事による原告らの社会的評価を回復させるための措置として、被告らに対し、謝罪広告の掲載まで命じることが必要であるとまでは認められず、慰謝料の支払を認めることで足りるものと解される。
なお、本件第二記事による名誉毀損については、原告らは慰謝料を請求せず、謝罪広告の掲載のみを求めているが、本件第二記事の作成・掲載の経緯及びその内容からすれば、本件第二記事は、本件第一記事を掲載したことによって原告らが本件訴訟を提起したことを批判するとともに、原告中坊が原告整理回収機構を不動産会社化しようとしていたという本件第一記事にも記載されていた記載を敷衍したものに過ぎず、名誉毀損による損害としては、本件第二記事による損害の大半は本件第一記事による損害に包摂されているということもできるから、原告らが本件第二記事による名誉毀損について慰謝料を請求しないからといって、本件第二記事によって低下した原告らの社会的評価を回復させるために謝罪広告の掲載を命じることが必要であると認めることはできない。
2 慰謝料
右1に掲げた点並びにこれまで認定した本件第一記事及び本件各新聞広告の内容、原告らの公的性格など、本件に現われた一切の事情を勘酌すると、本件第一記事及び本件各新聞広告の掲載で社会的評価が低下したことにより、原告らが被った精神的損害に対する慰謝料としては、原告らそれぞれについて、一〇〇万円ずつと認めるのが相当である。
七 結論
よって、原告らの本訴請求は、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、連帯して各原告について金一〇〇万円及びこれに対する不法行為のときである平成一〇年一〇月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求については理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田剛久 裁判官 徳岡由美子 裁判官 一場康宏)
別紙一~四<省略>